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発信のネタ出し

「帰宅願望あり」とだけ書いていませんか? — 「帰りたい」の理由と経過を残す介護記録の言い換え

結論、「帰宅願望あり」の一行では、本人が何と言い、何がきっかけで、どう対応して落ち着いたかが次の勤務者に伝わりません。認知症介護研究・研修センターの公開資料をもとに、「帰りたい」の場面を5つの欄に分けて書き残す方法を整理しました。

執筆: けありんぐ編集部(介護福祉けありんぐ 編集部)

夕方の食堂で介護職員が高齢の女性の隣に座り、話を聴きながらメモを取っているイラスト

「帰宅願望あり」とだけ書いていませんか? — 「帰りたい」の理由と経過を残す介護記録の言い換え

要点

  • 「帰宅願望あり」は、本人が帰りたがったという結果だけを残す書き方です。 何と言ったか、何がきっかけだったか、どう対応してどうなったかが抜けるため、次の勤務者は同じ場面でまた一から探ることになります。
  • 認知症介護研究・研修東京センターの報告書(平成28年12月)では、帰りたい理由を家族に関連づけて話した人が約半数いた一方、「仕事が終わったから」「空腹だから」「お金がかかるから」など、家や家族以外の理由も挙げられていました。同じ「帰宅願望」でも、中身は人によって違います。
  • 書き残すのは、①いつ・どこで ②直前の出来事 ③本人の言葉 ④試した対応 ⑤その後の様子の5つです。理由の推測は、事実とは分けて「考えたこと」として書きます。
  • この記事は「不穏」の言い換えの続編として、「帰宅願望」という1語だけを扱います。認知症の症状や治療の説明はしません。

「夕方、帰宅願望あり。傾聴にて対応」——申し送りでよく見る一文です。書いた本人にとっては、その場面が頭に残っているので十分な記録に思えます。ただ、翌日の遅番がこの一文を読んでも、分かるのは「夕方に帰りたがった」ことだけです。何と言っていたのか、何の話で落ち着いたのかは、書いた人の記憶にしか残っていません。

けありんぐではこれまで、「不穏」、「拒否」、「暴言」と、記録でよく使われる言葉を1語ずつ取り上げてきました。今回の「帰宅願望」の場面では、「子どもが待っているから」のように、本人が帰りたい理由を口にすることがあります。その言葉が記録に残るかどうかで、次の勤務者が対応を考える材料があるかどうかが決まります。

「帰宅願望あり」の一行では、何が伝わらないのか?

伝わるのは「帰りたがった」という結果だけです。本人の言葉、きっかけ、効いた対応という、次の勤務者が使える情報が抜け落ちます。

認知症介護研究・研修仙台センターが公開している解説資料『続・はじめての認知症介護』は、帰りたいという想い自体は誰でも抱くもので、帰りたいと言うこと自体は問題ではないという考え方を示しています。そのうえで、帰りたいという要求や外に出ようとする行動には本人なりの理由があり、その理由は人によってさまざまだと述べています。

この考え方に立つと、記録に必要なのは「帰りたがったかどうか」より、「なぜ帰りたかったのか」を探る材料です。「帰宅願望あり」の一行は、その材料をひとまとめにして消してしまいます。

同じ資料は、帰宅願望への対応として避けたいものに、帰りたいという訴えを問題と考えること、行動を抑制すること、理由を知ろうとしないその場限りの対応を挙げています。「帰宅願望あり。傾聴にて対応」という記録は、書いた人がきちんと話を聴いていたとしても、読み手からは「その場をしのいだ」記録と見分けがつきません。

「帰りたい」の理由は、人によってどれくらい違うのか?

家族に関する理由が多いものの、仕事・空腹・お金・居心地の悪さなど、家族以外の理由を話す人もいます。1つの言葉でまとめると、この違いが記録から見えなくなります。

認知症介護研究・研修東京センターは、「ひもときシート」を使った帰宅願望のケア事例を集めて分析し、平成28年12月に報告書『ひもときシートを活用した効果的認知症ケア事例の収集分析事業 ―帰宅願望に焦点を当てて―』をまとめています。この報告書は、帰宅願望を「認知機能低下等のない第三者から見ると客観的な理由がないのに帰りたいと言っている」状態と定義しています。第三者からは理由が見えなくても、本人には本人なりの理由がある、ということです。

報告書の考察では、帰りたい理由を家族に関連づけて説明していた人が約半数いたとされています。「帰らないと家族が心配する」「帰って子どもにご飯を作らなければいけない」といった言葉です。一方で、家や家族に関係しない次のような理由も挙げられていました。

  • 「仕事が終わったから」
  • 「世話になるわけにはいかないから」
  • 「空腹だから」
  • 「胸が痛いから」
  • 「お金がかかるから」
  • 施設・事業所が不快で、いたくない

さらに、ひもときシートで本人の困りごとを整理し直すと、「楽しみがない・することがない」「さみしい」「苦手な人がいる」「うるさい」「身体的な不快」など、本人が口にした理由とは別の困りごとも見えてきたと報告されています。報告書は、認知症の人が自分の不快感の原因を整理して伝えられるとは限らないことにも触れています。

仙台センターの資料も、帰りたい場所は家だけとは限らず、生まれ育った故郷や、子どもの頃・若い頃に暮らした家であることもあると述べています。

記録を書く立場から見ると、ここから言えることは1つです。「空腹だから帰る」と言った人と「子どもが待っているから帰る」と言った人も、「帰宅願望あり」と書かれた時点で、記録の上では同じ場面になります。 本人の言葉を残すと、2つは別の場面として読めるようになります。

帰宅願望の場面は、何を書き残せばいいのか?

①いつ・どこで ②直前の出来事 ③本人の言葉 ④試した対応 ⑤その後の様子、の5つを書きます。

「帰宅願望あり」という一行の記録を、①いつ・どこで、②直前の出来事、③本人の言葉、④試した対応、⑤その後の様子、の5つの欄に分けて書く方法を、記入例とともに横並びのカードで示した図解

5つの欄は、次のように使い分けます。

欄書くこと記入例
①いつ・どこで時刻、場所、そのときの周りの様子16時半、食堂の窓側の席。職員は夕食の準備で出入りが多かった
②直前の出来事訴えの前に何があったか同じテーブルの方のご家族が、面会を終えて帰られた直後
③本人の言葉聞こえたとおりに引用する「子どもが帰ってくるから、ご飯を作らないと」と話され、玄関のほうへ歩き出された
④試した対応何をしたか。効かなかった対応も書く「もう遅いので明日に」とお伝えしたが、表情は硬いまま。その後、隣に座り、お子さんの話を10分ほど伺った
⑤その後の様子対応のあとにどう変わったか表情がやわらぎ、夕食の配膳を一緒に手伝われた。その日は同じ訴えはなかった

表の記入例は、書き方を説明するために組み立てた場面で、実在の方の記録ではありません。自分の職場の記録様式に当てはめて確認してください。

5つのうち、②と④について補足します。

②の「直前の出来事」は、書いた本人には当たり前すぎて省略されがちです。けれど、同じ方の記録が何日分か並んだときに、「面会のあと」「職員の出入りが多い時間帯」のように共通するきっかけが見えてくることがあります。仙台センターの資料も、夕方近くの職員が忙しい時間帯に「ご飯の支度がありますので」と帰ろうとする人がいること、職員があわただしく動く姿が本人の気持ちを波立たせることもあることを取り上げています。

④の「試した対応」は、効かなかった対応も書くのがポイントです。上の例では「もう遅いので明日に」という声かけでは表情が変わらず、お子さんの話を伺うと落ち着きました。効いた対応だけを書くと、次の人が同じ声かけから試し直すことになります。

理由を推測したくなったら、どう書けばいいのか?

推測を書いてもかまいません。ただし本人の言葉や見えた様子とは分け、「〜と考えた」「〜かもしれない」と、書き手の考えであることが分かる形で添えます。

帰宅願望の記録で起きやすいのが、推測を事実のように書いてしまうことです。

  • 事実と推測が混ざった記録:「家族に会いたいため帰宅願望あり」
  • 分けた記録:「『息子が迎えに来る』と話される。(面会が2週間ないことが関係しているかもしれないと考え、相談員に共有)」

前者は、本人が「家族に会いたい」と言ったのか、書き手がそう解釈したのかが読み取れません。後者なら、本人の言葉と書き手の考えが別々に残ります。事実と考えを分ける書き方は、ヒヤリハット報告書で「事実」と「推測」を分ける方法でも詳しく扱っています。

東京センターの報告書が示すように、本人が口にした理由と、本当の困りごとは一致しないことがあります。推測を1つに決めつけず、本人の言葉と並べて残しておくと、チームで理由を探し直すときの材料になります。

「夕暮れ症候群」「いつもの帰宅願望」と書いてもいいのか?

職場の呼び名として通じても、記録には時刻と様子を書くほうが伝わります。「いつもの」と書くと、毎回の違いが消えてしまいます。

仙台センターの資料には、外が薄暗くなると「家に帰る」と訴える状況を「夕暮れ症候群」などと職場の中で呼ぶことがある、という記述があります。同じ資料は、夜になれば自宅へ帰るという何十年も続けてきた生活習慣は認知症になっても変わらないこと、「ここが自分の居場所ではない」と感じられることはむしろ正常な感覚とも言えることにも触れています。

記録に「夕暮れ症候群」と書くと、時間帯のラベルは伝わりますが、その日に何があったかは伝わりません。診断名のように読まれるおそれもあります。「16時半ごろ、窓の外が暗くなり始めたころに」と時刻と様子を書けば、同じ情報がより正確に残ります。

「いつもの帰宅願望」「本日も帰宅願望」も同じです。毎日同じように見えても、言葉やきっかけ、落ち着いた対応は日によって違うことがあります。「いつもの」と書いた時点で、その違いを探す手がかりが記録から消えます。

「帰宅願望」という言葉は、使ってはいけないのか?

禁止ではありません。研究や研修の資料でも使われている言葉です。目印として使い、中身は5つの欄で書く、という使い分けをおすすめします。

ここまで紹介した東京センター・仙台センターの資料も、「帰宅願望」という言葉を使っています。チームで状況を共有する目印として、この言葉は役に立ちます。

避けたいのは、「帰宅願望あり」で記録を終わらせることです。たとえば記録の冒頭に「帰宅の訴え」と見出しのように書き、そのあとに5つの欄を続ければ、申し送りや検索の目印を残しつつ、中身も伝えられます。職場で記録様式や用語が決まっている場合は、そのルールに合わせてください。

言い換えようとして、つまずきやすいのはどんな書き方か?

「傾聴にて対応」と対応を1語でまとめる、「落ち着かれた」だけで経過を終える、体調に関する言葉を帰りたい理由として流してしまう——この3つです。

つまずき1:「傾聴にて対応」で終わる

「傾聴」は対応の姿勢を表す言葉で、何を聴いたのかは伝わりません。「お子さんの小さい頃の話を伺った」のように話題まで書くと、次の人が同じ話題を使えます。

つまずき2:「落ち着かれた」で経過を終える

どれくらいで、何をきっかけに落ち着いたのかが抜けると、効いた対応が分かりません。「10分ほど話を伺うと表情がやわらいだ」「配膳を一緒にすると訴えがなくなった」のように、時間と変化を書きます。

つまずき3:体調に関する言葉を、帰りたい理由として流してしまう

東京センターの報告書には、「胸が痛いから」という理由も挙げられていました。「帰りたい」の中に痛み・空腹・トイレなど体に関する言葉が出てきたときは、帰宅の訴えとしてだけ扱わず、聞こえたとおりに記録したうえで、職場の手順に沿って看護職などに伝えてください。原因が何かを介護記録の中で判断する必要はありません。

帰宅願望の記録から、どう発信につなげればいいのか?

「帰りたい」と言われたときに何を聴き、何が効き、何が効かなかったかは、そのまま発信の題材になります。個人が特定される情報は外して書きます。

帰宅の訴えへの対応は、前出の東京センターの報告書でも「対応に苦慮することの多いケース」と書かれている場面です。自分が試した工夫を言葉にすると、同じ時間帯に同じ場面に立つ誰かの手がかりになります。

たとえば、次の2つを比べてみてください。

  • 言い換え前:「夕方になると帰宅願望が強い方がいて、毎日対応が大変です」
  • 言い換え後:「夕方、『子どもにご飯を作らないと』と話される方がいます。『もう遅いので明日に』とお伝えしても表情は硬いままでしたが、お子さんの話を伺うと落ち着かれることがありました。話題を探すために、ご家族から昔の暮らしを聞いておくようにしています」

後者には、本人の言葉、効かなかった声かけ、効いた工夫、次の準備がそろっています。読み手は、自分の現場で試せるかどうかを判断できます。

発信するときは、記録をそのまま転載しないでください。時刻・行事名・家族構成などが組み合わさると、個人が特定されることがあります。書き方の目安は個人が特定されない書き方の5つの自衛ルールと、氏名を伏せても「個人情報」になる境界線で整理しています。

まとめ:この記事で持ち帰れること

  • 「帰宅願望あり」は結果だけを残す書き方で、本人の言葉・きっかけ・効いた対応が次の勤務者に伝わらない
  • 帰りたい理由は家族のことが多いものの、仕事・空腹・お金・居心地など人によって違う(認知症介護研究・研修東京センターの報告書)
  • 記録は、①いつ・どこで ②直前の出来事 ③本人の言葉 ④試した対応(効かなかったものも)⑤その後の様子、の5つに分けて書く
  • 推測は事実と分けて「考えたこと」として添え、体調に関する言葉は職場の手順で看護職などに伝える

次に「帰りたい」と言われる場面があったら、まず本人の言葉を一言だけ、聞こえたとおりにメモしてみてください。5つの欄が全部埋まらなくても、本人の言葉が1つ残っていれば、次に読む人の手がかりになります。

ほかの言葉の言い換えは、介護記録の「不穏」はどう言い換える?、「拒否」とだけ書いていませんか?、「暴言」とだけ書いていませんか?で扱っています。

参考資料

  • 認知症介護研究・研修仙台センター『続・はじめての認知症介護』解説「3 帰宅願望場面における認知症ケアの考え方」(認知症介護情報ネットワーク(DCnet)公開PDF)
  • 認知症介護研究・研修東京センター『ひもときシートを活用した効果的認知症ケア事例の収集分析事業 ―帰宅願望に焦点を当てて― 報告書』平成28年12月(DCnet公開PDF)

いずれも2026年9月25日に内容を確認しています。

よくある質問

A. 禁止ではありません。認知症介護研究・研修センターの資料でも使われている言葉で、チームで状況を共有する目印になります。ただし「帰宅願望あり」で記録を終えると、本人の言葉やきっかけ、効いた対応が伝わりません。目印として使い、中身は具体的に書く使い分けが目安です。

A. ①いつ・どこで、②直前の出来事、③本人の言葉、④試した対応、⑤その後の様子、の5つです。本人の言葉は聞こえたとおりに引用し、試した対応は効かなかったものも書くと、次の勤務者が同じ声かけから試し直さずに済みます。

A. 書いてもかまいませんが、本人の言葉や見えた様子とは分け、「〜かもしれないと考えた」のように書き手の考えであることが分かる形にします。認知症介護研究・研修東京センターの報告書でも、本人が口にした理由とは別の困りごとが見えてきたと報告されており、推測を1つに決めつけないことが大切です。

A. 職場の呼び名として使われることはありますが、記録には「16時半ごろ、窓の外が暗くなり始めたころに」のように時刻と様子を書くほうが、その日に何があったかが正確に残ります。診断名のように読まれるおそれもあるため、ラベルだけで済ませないことをおすすめします。

A. 記録をそのまま転載せず、時刻・行事名・家族構成など、組み合わせると個人が特定される情報を外して書きます。本人の言葉、効かなかった声かけ、効いた工夫を書くと、同じ場面に立つ読み手が自分の現場で試せるかを判断しやすくなります。

この記事を、自分の経験を整理するきっかけに

まずは公開せず、次の3点を手元のメモに書いてみてください。

  1. どんな場面で、何を見たり聞いたりしたか
  2. 自分は何を考え、どんな工夫をしたか
  3. 同じ立場の人に、どんな経験や工夫を聞きたいか

業務記録をそのまま転載せず、利用者・家族・職場が特定される情報を含めない形に整理します。迷う内容は公開前に職場のルールと相談先を確認してください。

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