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発信のすすめ

氏名を伏せれば匿名、ではない — 介護の発信で「個人情報」になる境界線

結論、氏名や施設名を伏せても、年齢・病名・地域・行事などが組み合わさって誰のことか辿れれば、個人情報として扱われる可能性があります。個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンス、実際の判決と国の虐待対応マニュアルをもとに、介護の発信で確認したい境界線を整理しました。

執筆: けありんぐ編集部(介護福祉けありんぐ 編集部)

介護福祉プロが投稿前にスマホの内容を確認しているイラスト

氏名を伏せれば匿名、ではない — 介護の発信で「個人情報」になる境界線

要点

  • 氏名や施設名を書かなくても、年齢・病名・地域・行事などの情報が組み合わさり、誰のことか辿れる状態なら「個人情報」として扱われる場合がある。書き手が「匿名のつもり」でも、読み手から辿れるかどうかは別の問題になる。
  • 病歴、診療や心身の状態に関する情報、障害の事実などは、個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたり、取得や第三者提供に原則として本人の同意が必要とされる。医療・介護分野のガイダンスは、介護関係記録に書かれた病歴なども例に挙げている。
  • 訪問介護員が利用者の認知症の症状などをブログに書いた事案では、東京地方裁判所(平成27年9月4日判決)が訪問介護員と事業者の双方に賠償を命じたと解説されている。厚生労働省の虐待対応マニュアルも、入所者の姿を撮影して他の職員に見せる行為を高齢者虐待に該当すると考えられる例に挙げている。外部に公開したか、閉じた共有だったかだけでは判断されない。
  • 5つの自衛ルールの「固有情報を削る」「複数の経験を合成する」は、この境界線への対処法としてもそのまま機能する。
  • 制度・事例の記述は一次情報(個人情報保護委員会・厚生労働省)と判決の解説に基づき、断定的な法解釈は避けて整理する(2026年9月25日確認)。

「氏名は書いてないし、施設名も出していない。だから匿名だし、これは大丈夫」

発信を始めるとき、こう考える方は少なくありません。あなたの発信、特定されていませんか?では、匿名のつもりの投稿でも情報の積み重ねから特定されるリスクがあることと、それを避ける5つの自衛ルールを紹介しました。

本記事では、その中の「固有情報を削る」という工夫の土台にある、そもそも「個人情報」とは何を指すのかという境界線そのものを掘り下げます。「匿名だと思っていたものが、法律上はそう扱われないことがある」理由は、要配慮個人情報の章で説明します。

なぜ「氏名を書いていない」だけでは足りないのか?

個人情報保護法における「個人情報」は、氏名の有無だけで決まるのではなく、「他の情報と照合して特定の個人を識別できるか」で判断されるためです。

個人情報保護法第2条は、氏名や生年月日などの記述で特定の個人を識別できる情報に加えて、他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できることとなる情報も個人情報に含めています。氏名を伏せていても、他の記述と組み合わせることで「誰のことか」が分かってしまう情報は、個人情報として扱われる可能性があります。

介護の発信に当てはめると、たとえば次のような書き方が該当しやすくなります(書き方を説明するための例です)。

  • 「要介護5、90歳代、〇〇町在住」——氏名がなくても、地域が狭ければ個人の特定につながりうる
  • 「あの季節行事の日に、ある利用者さんが」——施設独自の行事名と時期が組み合わさると、関係者には分かってしまう
  • 「入職〇年目で、〇〇担当をしている職員が」——職種・経験年数・担当業務の組み合わせで、同僚には絞り込める

「氏名を書いたかどうか」ではなく、「読んだ人が『誰のことか』を辿れるかどうか」が、境界線を引く基準になります。この基準は、どこまで具体的に書いてよいかを判断するときのものさしとして使えます。

病歴や要介護度は、なぜ特に注意が必要なのか?

病歴や心身の状態、障害の事実などは「要配慮個人情報」にあたり、取得や第三者提供に原則として本人の同意が必要とされるなど、通常の個人情報より慎重な扱いが法律上求められているためです。

個人情報保護委員会と厚生労働省が公表している「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」は、医療・介護関係事業者が個人情報を適切に取り扱うための考え方を示したものです(平成29年4月策定、令和8年4月に一部改正)。このガイダンスは主に事業者(施設・法人)向けですが、根底にある考え方は個人の発信にも当てはまります。

個人情報保護法が定める要配慮個人情報とは、本人に対する不当な差別や偏見その他の不利益が生じないよう、取扱いに特に配慮を要する記述が含まれる個人情報を指します。ガイダンスは、介護関係事業者で想定される例として、介護関係記録に書かれた病歴、診療の過程で知り得た心身の状態や病状、健康診断の結果、障害(身体障害・知的障害・精神障害等)の事実などを挙げています。

発信に置き換えると、次の2つを分けて考えると整理しやすくなります。

  • 要配慮個人情報にあたる情報の例:診断名・既往歴・服薬の状況、心身の状態や病状、障害の事実
  • 要配慮個人情報として列挙されてはいないが、組み合わせで特定につながりやすい情報の例:要介護度、利用しているサービスの種類、年齢、地域、行事名

後者も、前者と組み合わさると「誰の病歴か」を辿れる手がかりになります。どちらも、記事の学びに必要な範囲を超えて書かないのが目安です。

氏名だけを基準にした従来の考え方と、要介護度・病歴・地域などの組み合わせで個人が特定されるという法律上の考え方を対比した図解。「氏名を書いていないから匿名」という誤解と、「複数の情報の組み合わせで特定されうる」という実際の境界線の違いを示す

これが、冒頭で触れた「匿名だと思っていたものが、法律上そう扱われない」ことが起こる理由です。氏名という1つの情報だけを削っても、病歴と、年齢・地域・要介護度のような手がかりが一緒に残っていれば、誰の病歴かを辿れる状態のままになります。

実際に、どんなトラブルが起きているのか?

訪問介護員が利用者のことをブログに書いた事案で、本人と事業者の双方に賠償が命じられた判決があります。国の虐待対応マニュアルも、入所者の姿を撮影して職員に見せる行為を虐待の例に挙げています。

1つ目は判決です。法律事務所の判例解説によると、東京地方裁判所の平成27年9月4日判決は、訪問介護員が訪問先で知った利用者の私生活上の様子(認知症にり患していることや、日常動作を1人でこなせないことなど)を自身のブログで公表したことについて、プライバシー侵害と名誉毀損にあたると判断しました。解説では、訪問介護員に慰謝料150万円、事業者に130万円の支払いが命じられ、事業者は在職中の投稿について使用者責任を、退職後の投稿について秘密保持義務違反(債務不履行)を問われたとされています。

2つ目は、厚生労働省老健局の「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」(令和7年3月)です。このマニュアルは、「裸になった入所者の姿を携帯電話で撮影し、他の職員に見せた」「入所者の顔に落書きをして、それを携帯電話で撮影し、他の職員に見せた」といった行為を、養介護施設従事者等による高齢者虐待に該当すると考えられる例として示しています。

この2つから言えるのは、外部に公開したかどうか、閉じたグループかどうかだけで判断されるわけではないという点です。職員同士で見せただけでも虐待の例に挙げられ、個人のブログへの投稿でも事業者が責任を問われています。訪問介護のように利用者の私生活に深く関わる仕事では、書き手が知っている情報そのものが、もともと慎重に扱うべき性質を持っています。

介護福祉けありんぐで想定している発信は、個人の経験を一般化した知見の発信です。業務日誌の共有とは目的が違います。だからこそ、業務上のやり取りとは違う配慮の仕方——固有情報を削り、複数の経験を合成し、一般化して書く——が必要になります。

施設が扱う個人情報のルールと、個人の発信は何が違うのか?

施設・法人はガイダンスに沿って組織的な安全管理措置を取る立場にあり、個人の発信は「そもそも要配慮個人情報を書かない」判断がいちばんの防御になるという違いがあります。

前述のガイダンスは、施設・法人が個人情報を扱ううえでの安全管理措置(誰が、どの情報に、どうアクセスできるかを管理する仕組み)や、本人の同意を得たうえでの第三者提供のルールなどを定めています。施設側は、利用者から同意を得て情報を取得し、組織として管理する立場にあります。

一方、個人の発信は事情が異なります。あなたが発信する内容は、業務として利用者の同意を得て公開するものではありません。個人の発信では、要配慮個人情報にあたる要素を本文に残さないことが、書き手が自分でできるいちばん手前の対策です。施設側の発想が「同意を得て、管理して、必要な範囲で使う」であるのに対し、個人として発信するときは「学びに必要な範囲まで削り、合成し、一般化する」が現実的な進め方になります。

「合成」「一般化」は、この境界線にも効くのか?

効きます。複数の経験を合成し一般化すると、記述が特定の1人に結びつきにくくなり、誰の病歴や状態かを辿る手がかりが減ります。

あなたの発信、特定されていませんか?で紹介した5つの自衛ルールのうち、特に次の2つは、今回説明した要配慮個人情報の境界線に対しても、そのまま有効に働きます。

  • 固有情報を削る——診断名・要介護度・地域名など、要配慮個人情報やその手がかりになる要素を書く前に、それが記事の学びに必要かを一度自問する
  • 複数の経験を合成する——1人の利用者さんの経験ではなく、似た場面を経験した複数の方の要素を組み合わせて「典型的な一例」として書けば、特定の個人の要配慮個人情報として扱われる状態から離れられる

この2つは、特定を防ぐ工夫であると同時に、記述を「特定の誰かの病歴や状態」から「現場でよくある場面」へ移す作業でもあります。あなたの現場の工夫や判断という「学び」の部分は、これらの要素を削っても失われません。

発信前に、境界線をどうセルフチェックすればいいのか?

「この一文だけを読んだ第三者が、誰のことか辿れないか」を基準に、公開前に読み返します。

法律の条文を毎回参照するのは現実的ではありません。代わりに、次の3つの問いを公開前に自分に向けてみてください。

  1. 要介護度・診断名・地域名などを、記事の学びに必要な範囲を超えて書いていないか——「ある利用者さん」で足りる場面に、個別性の高い情報を残していないか確認する
  2. 時期・行事名・担当業務などを組み合わせると、関係者には辿れてしまわないか——1つ1つは些細でも、組み合わさると絞り込みになっていないか読み直す
  3. これは1人の経験そのままか、複数の経験を合成した一般的な学びになっているか——1人の経験そのままなら、合成できないか一度検討する

この3つは、あなたの発信、特定されていませんか?で紹介した「公開前に一晩置く」習慣と組み合わせられます。一晩置いてから読み返すときに、この3つの問いを当てはめてみてください。

まとめ — この記事で持ち帰れること

この記事から持ち帰れることは、次の4つです。

  • 「氏名を書いていないから匿名」ではなく、「読んだ人が誰のことか辿れるかどうか」が個人情報の境界線を決めると分かった
  • 病歴・心身の状態・障害の事実などは「要配慮個人情報」にあたり、要介護度や地域などと組み合わさると誰の情報かを辿る手がかりになると分かった
  • 利用者のことをブログに書いた事案で本人と事業者に賠償が命じられた判決や、職員に写真を見せる行為を虐待の例に挙げる国のマニュアルがあり、「閉じた共有だから大丈夫」とは言えないと分かった
  • 固有情報を削り複数の経験を合成する書き方は、特定を防ぐだけでなく、記述を「特定の誰かの情報」から離す働きがあると分かった

今日ひとりでできることをひとつ。これまでに公開した自分の投稿を1本だけ読み返して、要介護度・診断名・地域名・行事名のうち、記事の学びに必要な範囲を超えて残っている情報がないか、探してみてください。見つかったら、次に書くときの「削る基準」がその分だけはっきりします。

個人情報の境界線とあわせて、施設の就業規則が発信をどこまで縛るのかも気になる方は、就業規則はSNS発信をどこまで縛る?で「施設のルール」と「資格法上の義務」という2つのレイヤーを整理しています。記録によく出る言葉を、個人を特定しない形で発信に使う例は、「帰宅願望あり」とだけ書いていませんか?でも紹介しています。

なお、個人情報保護法は2026年7月に改正法が成立・公布され、一部を除き公布から2年以内に施行されます(個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」)。この記事の定義部分は、2026年9月25日時点の現行法とガイダンスに基づいています。

介護福祉けありんぐは、介護・福祉に携わるプロが、所属や経歴を背負わずに現場の知恵を発信し、学び合えるプラットフォームです。境界線を知っておくと、どこまで具体的に書けるかを自分で判断できるようになります。

よくある質問

A. 起きる場合があります。個人情報保護法における個人情報は、氏名の有無だけで判断されるのではなく、他の情報と組み合わせて特定の個人を識別できるかどうかで判断されます。要介護度・病歴・地域名などが組み合わさると、氏名がなくても個人情報として扱われる可能性があります。

A. 本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないよう、取扱いに特に配慮を要する記述が含まれる個人情報です。医療・介護関係事業者向けのガイダンスは、介護関係記録に書かれた病歴、心身の状態や病状、健康診断の結果、障害の事実などを例に挙げています。取得や第三者提供には原則として本人の同意が必要とされています。

A. 訪問介護員が利用者の認知症の症状などを個人ブログに書いた事案で、東京地方裁判所(平成27年9月4日判決)がプライバシー侵害・名誉毀損にあたると判断し、訪問介護員と事業者の双方に賠償を命じたと解説されています。また厚生労働省の虐待対応マニュアルは、入所者の姿を撮影して他の職員に見せる行為を、高齢者虐待に該当すると考えられる例に挙げています。

A. 有効です。1人の利用者さんの経験そのままではなく、似た場面を経験した複数の方の要素を組み合わせて「典型的な一例」として書くと、記述が特定の1人の情報ではなくなり、誰の病歴や状態かを辿る手がかりが減ります。現場の工夫や判断という学びの部分は、合成しても残ります。

A. 「この一文だけを読んだ第三者が、誰のことか辿れないか」を基準に、要介護度・診断名・地域名などを学びに必要な範囲を超えて書いていないか、時期や行事名の組み合わせで絞り込みになっていないか、1人の経験そのままではなく合成できないかの3点を、公開前に読み返して確認する方法が実用的です。

具体的な体験を、そのまま公開する前に

伝えたい工夫と、個人や職場を推測できる情報を分けてみましょう。判断に迷う内容は公開を急がず、ガイドラインと職場のルールを確認できます。

業務記録をそのまま転載せず、利用者・家族・職場が特定される情報を含めない形に整理します。迷う内容は公開前に職場のルールと相談先を確認してください。

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