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発信のすすめ

氏名を伏せれば匿名、ではない — 介護の発信で「個人情報」になる境界線

執筆: けありんぐ編集部介護福祉けありんぐ 編集部

氏名を伏せれば匿名、ではない — 介護の発信で「個人情報」になる境界線

要点

  • 氏名や施設名を書かなくても、要介護度・病歴・地域などの情報が組み合わさると「個人情報」として扱われる場合がある。「匿名のつもり」と法律上の匿名性は別物。
  • 病歴や心身の障害に関する情報は個人情報保護法上要配慮個人情報と呼ばれる区分にあたり、通常の個人情報よりも慎重な取り扱いが求められている。
  • SNSでの利用者情報の発信をめぐっては、プライバシー侵害や虐待と認定された事例が実際に報告されている。「閉じたグループだから」「業務日誌ふうに書いただけだから」は、境界線の外側にいる理由にはならない。
  • 5つの自衛ルールの「固有情報を削る」「複数の経験を合成する」は、この境界線への対処法としてもそのまま機能する。
  • 制度・事例の記述は一次情報(個人情報保護委員会・厚生労働省)と公開されている報告に基づき、断定的な法解釈は避けて整理する。

「氏名は書いてないし、施設名も出していない。だから匿名だし、これは大丈夫」

介護福祉けありんぐで発信を続けている方の多くが、一度はこう考えたことがあるはずです。あなたの発信、特定されていませんか?では、匿名のつもりの投稿でも情報の積み重ねから特定されるリスクがあることと、それを避ける5つの自衛ルールを紹介しました。

本記事では、その中の「固有情報を削る」という工夫の土台にある、そもそも「個人情報」とは何を指すのかという境界線そのものを掘り下げます。ここには、多くの人が見落としがちな法律上の考え方があります。それは「匿名だと思っていたものが、実は法律上そう扱われない」という逆転が起こり得る理由でもあり、この記事の後半で具体的に説明します。

なぜ「氏名を書いていない」だけでは足りないのか?

個人情報保護法における「個人情報」は、氏名の有無だけで決まるのではなく、「他の情報と照合して特定の個人を識別できるか」で判断されるためです。

個人情報保護法第2条が定める個人情報の考え方は、氏名そのものだけを指しているわけではありません。氏名を伏せていても、他の記述と組み合わせることで「誰のことか」が分かってしまう情報は、個人情報として扱われる可能性があります。

介護・福祉の現場を扱う実務解説でも、次のような例が挙げられています。

  • 「要介護5、90歳代、〇〇町在住」——氏名がなくても、地域が狭ければ個人の特定につながりうる
  • 「あの季節行事の日に、ある利用者さんが」——施設独自の行事名と時期が組み合わさると、関係者には分かってしまう
  • 「入職〇年目で、〇〇担当をしている職員が」——職種・経験年数・担当業務の組み合わせで、同僚には絞り込める

「氏名を書いたかどうか」ではなく、「読んだ人が『誰のことか』を辿れるかどうか」が、境界線を引く基準になります。この考え方は、発信をやめさせるためのものではなく、どこまで具体的に書いてよいかを判断するための実用的なものさしです。

病歴や要介護度は、なぜ特に注意が必要なのか?

病歴や心身の障害に関する情報は「要配慮個人情報」にあたり、通常の個人情報よりも慎重な取り扱いが法律上求められているためです。

個人情報保護委員会と厚生労働省が公表している「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」は、医療・介護関係事業者が個人情報を適切に取り扱うための考え方を示したものです。このガイダンスは主に事業者(施設・法人)向けですが、根底にある考え方は個人の発信にも当てはまります。

個人情報保護法が定める要配慮個人情報とは、「本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないよう特に配慮を要する」情報を指します。病歴、障害の有無、そして介護・障害福祉サービスを利用している事実そのものも、この要配慮個人情報に含まれる考え方が示されています。

つまり、次のような情報は、一般的な個人情報よりも一段階、慎重に扱うべき情報だということです。

  • 診断名・既往歴・服薬の状況
  • 要介護度・認知症の症状の程度
  • 介護保険サービスや障害福祉サービスを利用している事実そのもの

氏名だけを基準にした従来の考え方と、要介護度・病歴・地域などの組み合わせで個人が特定されるという法律上の考え方を対比した図解。「氏名を書いていないから匿名」という誤解と、「複数の情報の組み合わせで特定されうる」という実際の境界線の違いを示す

これが、冒頭で予告した「匿名だと思っていたものが、法律上そう扱われない」ことが起こる理由です。氏名という1つの情報だけを削っても、要介護度・病歴・地域といった要配慮個人情報にあたる要素がそのまま残っていれば、境界線の内側に留まったままになります。

実際に、どんなトラブルが起きているのか?

SNSやブログでの利用者情報の発信をめぐり、プライバシー侵害や虐待と認定された事例が、複数の実務解説で報告されています。

介護・福祉の現場を扱う実務解説や報道では、次のような事例が紹介されています。断定的な法解釈を避けるため、報告されている内容の要旨として紹介します。

  • 訪問介護のヘルパーが個人ブログに利用者の認知症の症状や日常動作の様子を投稿した事案で、裁判所がプライバシー侵害・名誉毀損にあたると判断し、書き手本人だけでなく、当時勤務していた事業者にも「利用者の秘密を漏らさせない義務は契約終了後も及ぶ」として損害賠償の支払いが命じられたと報道されている
  • 入浴中の高齢者の様子を撮影しSNSで共有した事案が虐待と認定され、改善指導につながったと報告されている
  • 排せつに関わる場面を撮影しメッセージアプリで送信した事案について、行政指導につながったと報告されている

これらの報告に共通するのは、「閉じたグループだから」「業務の共有のつもりだったから」という認識は、対外的な判断を左右しないとされているという点です。投稿の公開範囲や意図がどうであれ、内容そのものが利用者のプライバシーに関わる情報であれば、境界線の外に出てしまうということです。1つ目の事例で報道が指摘しているのは、訪問介護のような、利用者のプライバシーに必然的に触れる仕事だからこそ、事業者には従業員への指導監督義務があるという視点です。これは事業者側の責任の話であると同時に、発信する本人にとっても「この仕事はもともとそういう性質の情報を扱っている」という自覚を持つきっかけになります。

介護福祉けありんぐでの発信は、業務日誌の共有ではなく、あくまで個人の経験を一般化した知見の発信を想定しています。だからこそ、業務上のやり取りとは違う配慮の仕方——固有情報を削り、複数の経験を合成し、一般化して書く——が必要になります。

施設が扱う個人情報のルールと、個人の発信は何が違うのか?

施設・法人はガイダンスに沿って組織的な安全管理措置を取る立場にあり、個人の発信は「そもそも要配慮個人情報を書かない」判断がいちばんの防御になるという違いがあります。

前述のガイダンスは、施設・法人が個人情報を扱ううえでの安全管理措置(誰が、どの情報に、どうアクセスできるかを管理する仕組み)や、本人の同意を得たうえでの第三者提供のルールなどを定めています。施設側は、利用者から同意を得て情報を取得し、組織として管理する立場にあります。

一方、個人の発信は事情が異なります。あなたが発信する内容は、業務として利用者の同意を得て公開するものではありません。個人の発信における最も確実な防御は、そもそも要配慮個人情報にあたる要素を本文に残さないことです。施設側の「同意を得て、管理して、必要な範囲で使う」という発想ではなく、「学びに必要な範囲まで削り、合成し、一般化する」という発想に立つのが、個人として発信するときの現実的なアプローチになります。

「合成」「一般化」は、この境界線にも効くのか?

効きます。要配慮個人情報の考え方に照らしても、複数の経験を合成し一般化する書き方は、境界線の内側から外側へ出るための有効な手段です。

あなたの発信、特定されていませんか?で紹介した5つの自衛ルールのうち、特に次の2つは、今回説明した要配慮個人情報の境界線に対しても、そのまま有効に働きます。

  • 固有情報を削る——要介護度・診断名・地域名など、要配慮個人情報にあたりやすい要素を書く前に、それが記事の学びに本当に必要かを一度自問する
  • 複数の経験を合成する——1人の利用者さんの経験ではなく、似た場面を経験した複数の方の要素を組み合わせて「典型的な一例」として書けば、特定の個人の要配慮個人情報として扱われる状態から離れられる

この2つは、単なる「特定されないための工夫」ではなく、要配慮個人情報という法律上のカテゴリそのものから、記述を外に出す作業だと捉え直すと、なぜ効果があるのかがより腑に落ちるはずです。あなたの現場の工夫や判断という「学び」の部分は、これらの要素を削っても失われません。

発信前に、境界線をどうセルフチェックすればいいのか?

「この一文だけを読んだ第三者が、誰のことか辿れないか」を基準に、公開前に読み返す習慣が最も実用的です。

法律の条文を毎回参照するのは現実的ではありません。代わりに、次の3つの問いを公開前に自分に向けてみてください。

  1. 要介護度・診断名・地域名などを、記事の学びに必要な範囲を超えて書いていないか——「ある利用者さん」で足りる場面に、個別性の高い情報を残していないか確認する
  2. 時期・行事名・担当業務などを組み合わせると、関係者には辿れてしまわないか——1つ1つは些細でも、組み合わさると絞り込みになっていないか読み直す
  3. これは1人の経験そのままか、複数の経験を合成した一般的な学びになっているか——1人の経験そのままなら、合成できないか一度検討する

この3つは、あなたの発信、特定されていませんか?の「公開前に一晩置く」習慣と組み合わせると、より確実になります。一晩置いて読み返すときに、この3つの問いを当てはめてみてください。

まとめ — この記事で持ち帰れること

この記事から持ち帰れることは、次の3つです。

  • 「氏名を書いていないから匿名」ではなく、「読んだ人が誰のことか辿れるかどうか」が個人情報の境界線を決めると分かった
  • 病歴・要介護度・障害福祉サービスの利用事実などは「要配慮個人情報」にあたり、通常より慎重な扱いが求められる情報だと分かった
  • 固有情報を削り複数の経験を合成する書き方は、特定防止だけでなく、この境界線から記述を外に出す実質的な効果を持つと分かった

今日ひとりでできることをひとつ。これまでに公開した自分の投稿を1本だけ読み返して、要介護度・診断名・地域名・行事名のうち、記事の学びに必要な範囲を超えて残っている情報がないか、探してみてください。見つかったら、次に書くときの「削る基準」がその分だけはっきりします。

介護福祉けありんぐは、介護・福祉に携わるプロが、所属や経歴を背負わずに現場の知恵を発信し、学び合えるプラットフォームです。境界線を知っていることは、発信をためらう理由ではなく、長く安心して書き続けるための土台になります。迷ったときは、いつでもこの記事に立ち返ってください。

よくある質問

A. 起きる場合があります。個人情報保護法における個人情報は、氏名の有無だけで判断されるのではなく、他の情報と組み合わせて特定の個人を識別できるかどうかで判断されます。要介護度・病歴・地域名などが組み合わさると、氏名がなくても個人情報として扱われる可能性があります。

A. 本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないよう特に配慮を要する情報を指し、病歴や心身の障害の有無、介護・障害福祉サービスを利用している事実などが含まれる考え方が示されています。通常の個人情報よりも慎重な取り扱いが求められています。

A. 個人ブログへの症状の投稿がプライバシー侵害・名誉毀損にあたるとされた事案や、入浴中の様子の撮影・共有が虐待と認定された事案、排せつに関わる場面の撮影が行政指導につながった事案などが、実務解説で報告されています。「閉じたグループだから大丈夫」という認識は境界線の外に出る理由にはならないとされています。

A. 有効です。1人の利用者さんの経験そのままではなく、似た場面を経験した複数の方の要素を組み合わせて「典型的な一例」として書くことで、特定の個人の要配慮個人情報として扱われる状態から記述を外に出せます。現場の学びの本質は、合成しても失われません。

A. 「この一文だけを読んだ第三者が、誰のことか辿れないか」を基準に、要介護度・診断名・地域名などを学びに必要な範囲を超えて書いていないか、時期や行事名の組み合わせで絞り込みになっていないか、1人の経験そのままではなく合成できないかの3点を、公開前に読み返して確認する方法が実用的です。

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