素敵なコラム紹介 #6|いつもの型を、少しほどく
素敵なコラム紹介 #6|いつもの型を、少しほどく
けありんぐ編集部です。『素敵なコラム紹介』は、介護・福祉の現場で働く方に「これは読んでよかった」と感じていただけるコラムを、およそ3週間ごとにお届けしている連載です。今回で第6回になりました。今回も3本のコラムを、それぞれの良さをじっくり味わいながらご紹介します。
今回のテーマは「いつもの型を、少しほどく」です。仕事でも家でも、わたしたちは知らないうちに決まった型で動いています。巡視は部屋番号の順に、記録はいつもの机で下を向いたまま、家族に「手伝おうか」と言われたら反射的に「大丈夫」と答える。型があるから毎日は回ります。ただ、その型がいつの間にか、体や心に静かな負担をかけていることもあります。
ご紹介する3本は、そんな「当たり前になっていた型」に書き手がふと気づき、小さく手を入れていく様子が描かれたコラムです。大がかりな改革の話ではありません。頼み方を三つに絞る、巡視の順番を見直す、記録中の首の角度に目を向ける。どれも、明日からでも試せそうなささやかな組み替えです。だからこそ、読んだあとに「自分にもできるかもしれない」という感触が残ります。
9月も後半に入り、夜の空気が少しずつ変わってきた頃かと思います。夜勤の詰所で、あるいは実家からの帰り道で、ふと立ち止まったときに思い出していただけたらうれしい3本です。忙しい毎日の中で、自分の型を眺め直す小さな時間になれば幸いです。
「手伝おうか」と夫に言われた夜、頼み方を三つに絞った話
書き手のなかぴーさんは52歳、中堅メーカーの総務部で係長をされています。3ヶ月前、実家で一人暮らしをしていたお父さま(79歳)が脳梗塞で倒れ、通い介護が始まりました。コラムは、火曜の夜9時半、コートも脱がないままキッチンのテーブルに通院バッグとお薬手帳を置いた、その瞬間から始まります。洗い物をしていた夫の「手伝おうか」に、口をついて出たのは「ううん、大丈夫」。答えてから「しまった」と思う、その心の動きが率直に綴られています。
このコラムの良さは、「大丈夫」と言ってしまう自分を責めることなく、静かに見つめ直しているところです。片道40分の運転で肩は凝り、翌朝にはヘルパーさんへの連絡も控えている。全然大丈夫ではないのに、なぜ断ってしまうのか。夫が「そう」とだけ言って洗い物を続ける背中と、台所に残った気まずい静けさの描写は、家族介護をしている方なら誰しも身に覚えがあるのではないでしょうか。そして、この「手伝おうか」が3ヶ月のあいだに一度や二度ではなかった、と打ち明ける一文に、書き手の正直さが表れています。
夫婦で家事を分担してきたご家庭でも、介護が加わった途端に「何をどう渡せばいいのか」が見えなくなることは珍しくないように思います。手伝ってほしい気持ちはあるのに、頼む言葉が出てこない。頼んだあとで相手の負担を考えて、やっぱり自分でやろうと思い直してしまう。このコラムは、その手前でつまずいている方に、そっと寄り添ってくれます。タイトルにある通り、なかぴーさんはそこから、頼み方を三つに絞るという工夫にたどり着きます。どんな三つなのかは、ぜひ本文で確かめてみてください。
読み終えたあとに残るのは、頼むことは甘えではなく、家族が一緒に介護を続けていくための段取りなのかもしれない、という感触です。介護の当事者やご家族だけでなく、夜勤明けに自分の家のことを考えてしまう職員の方にも、静かに響く一本だと思います。「大丈夫」と言い続けてきた自分を、少しだけ休ませてあげたくなるコラムとして、編集部から推薦します。
巡視の順番を、部屋番号順からやめた日
特養の夜勤に携わる書き手が、巡視の順番を見直すまでの経緯を書いたコラムです。きっかけは、夜勤明けのミーティングで経験の浅いスタッフがぽつりと口にした「三時にコールが鳴って、駆けつけたらもう床に座り込んでいらっしゃいました」という一言でした。大きな怪我はなく、ご本人もすぐに落ち着かれたそうです。それでも書き手は、巡視表を見返してその部屋が確認の順番の最後だったことに気づき、その一言をそのまま流せなかったと書いています。
このコラムが丁寧なのは、勘や印象ではなく、記録を月ごとに見返すところから考え始めている点です。転倒やヒヤリの件数そのものは多くなく、年間で数えても両手で足りるくらい。それでも時間帯だけは偏っていて、二時から四時に集中していた。夜勤の始まりには緊張感があり、朝が近づけばまた気が張り直す、ちょうどその谷にあたる時間です。しかも、そこに名前が挙がるのはいつも同じ方だった。抜粋はここで途切れますが、ここまでの流れだけでも、書き手が現場の実感と記録の両方を大切にしていることが伝わってきます。
部屋番号順に回るのは数え漏れが出ないから、という理由を、書き手はきちんと認めています。「わたしも長らく、それで十分だと思っていました」という言葉にも飾りがありません。長く続いてきたやり方を否定するのではなく、その良さを分かったうえで、今の入居者さんと今の時間帯に合わせて組み替える。そこに至るまでの迷いや根拠が順を追って書かれているので、読み手も一緒に考えることができます。
夜勤の巡視を担っている方、夜間の体制づくりに関わっている方には、自分の施設ではどうだろうと振り返るきっかけになるはずです。そして何より、経験の浅いスタッフの一言を受け止め、責めるのでも流すのでもなく、仕組みに変えていこうとする姿勢そのものが、編集部として推したい理由です。ミーティングでの小さな声が、こうして現場を少し動かしていく。その過程を見せてもらえることが、このコラムのいちばん大きな贈り物だと思います。夜勤明けの静かな時間に、ぜひ読んでみてください。
夜勤の記録用紙に屈み込むたび、首の付け根が固まっていたわたしへ
理学療法士として12年の経験をもつ書き手が、自分自身の首の痛みを起点に書いたコラムです。深夜2時を少し過ぎた頃、記録用紙に何度目かのペンを置いた瞬間、首の付け根がジンと痛んだ。申し送りノートに屈み込み、肩は動かさないまま首だけを前に落として書き続けていたことに、そのとき初めて気づいた。顔を上げると天井の照明がやけに眩しく、首を反らすのも一苦労だった。腰や肩についてはこれまで何度も書いてきたけれど、首、とりわけ「下を向く時間の長さ」については書いたことがなかった、というのがこの記事のきっかけだそうです。
このコラムの良さは、「止まっている時間」の負担に目を向けている点です。移乗や体位変換のように体を動かす介助は、負担も自覚しやすい。けれど記録業務は動かない時間だからこそ、気づきにくい。22時台の巡視記録、深夜2時台の体位変換記録、明け方の申し送り準備と、一晩のうちに何度も記録台に向かい、多いときは合計で1時間以上も下を向いたままになる。書き手自身のその計算には、はっとさせられます。介助の場面ばかりが注目されがちな夜勤の中で、記録台という見落とされやすい場所に光を当ててくれました。
タイトルが「わたしへ」と自分に向けて書かれているのも、このコラムのあたたかさです。専門職が上から教える文章ではなく、同じように夜勤の記録台に屈み込んだひとりとして語られているので、構えずに読めます。自分の体に「こんなに固まっていたのか」と少し驚いた夜の描写には、専門職であっても自分のことは後回しになりがちだという、現場の誰もが抱える正直さがにじんでいます。
介護職員の方はもちろん、在宅で介護日誌をつけているご家族にも、心当たりのある場面ではないでしょうか。夜勤明けに首の付け根が固まっていると感じたことのある方に、まず自分の姿勢に気づくところから始めてみませんか、と静かに声をかけてくれる一本です。自分の体を後回しにしがちな方にこそ、届いてほしいと思います。次の夜勤で記録台に向かうとき、ふと顔を上げる瞬間が一度でも増えたら、それだけでこのコラムを読んだ意味があるように思います。
→ 夜勤の記録用紙に屈み込むたび、首の付け根が固まっていたわたしへ
今回の3本に共通しているのは、「気づく」から「少し変える」までの距離が、とても近いことです。反射的に出てしまう「大丈夫」、長年当たり前だった部屋番号順、無意識に落としていた首の角度。どれも書き手が自分の型に気づき、それを責めることなく、小さく組み替えていく過程が描かれています。そして三人とも、その気づきを自分の中にしまい込まず、言葉にして誰かに手渡してくれました。
大きく変えなくていい、というのは、現場で働く方にとって救いになる言葉だと思います。頼み方を三つに絞る、順番をひとつ入れ替える、ペンを置いたときに顔を上げる。そのくらいの変化なら、明日の夜勤からでも、次に実家へ向かう車の中からでも始められます。うまくいかない日があっても、型をほどいてみたという事実は残ります。その小さな積み重ねが、ご本人にも、ご家族にも、一緒に働く仲間にも、少しずつやさしい形で返っていくのだと思います。
次回の『素敵なコラム紹介 #7』も、およそ3週間後にお届けします。現場の方の小さな工夫と、その裏にある誠実なまなざしを、引き続き探してまいります。それでは、今夜も明日も、どうか無理のない一日をお過ごしください。
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