夜勤の記録用紙に屈み込むたび、首の付け根が固まっていたわたしへ
夜勤の記録用紙に向かって、何度目かのペンを置いた瞬間、首の付け根がジンと痛みました。時計は深夜2時を少し過ぎたところ。申し送りノートに屈み込んで、肩は動かさないまま首だけを前に落として書き続けていたことに、そのとき初めて気づいたんです。
顔を上げると、天井の照明がやけに眩しく感じました。首を反らすのも一苦労で、こんなに固まっていたのかと、自分の体に少し驚いた夜でした。
理学療法士として12年、腰や肩の話はよく書いてきましたが、首、特に「下を向く時間の長さ」について書いたことがなかったなと思ったのが、この記事のきっかけです。介護職員の方にも、家族介護をしている方にも、心当たりのある場面だと思います。
深夜、記録用紙に落ちていく首の角度
夜勤の記録業務は、体を動かす介助と違って「止まっている時間」です。だからこそ、負担に気づきにくいんですよね。
わたしの場合、22時台の巡視記録、深夜2時台の体位変換記録、明け方の申し送り準備と、一晩に何度も記録台に向かいます。多いときは合計で1時間以上、下を向いたままペンを走らせている計算になります。移乗や体位変換のように体を動かす介助なら、こまめに姿勢が変わります。でも記録は違います。同じ角度のまま、じっと固定されるんですよね。
頭は体の中でもかなり重い部位で、首から前に傾くほど、それを支える首や肩の負担は大きくなると言われています。まっすぐ立っているときはそう感じなくても、記録用紙を覗き込むように首を30度、45度と倒していくと、支える側の負担は静かに積み上がっていくんですよね。
わたしはその夜、ペンを置いた瞬間に「あ、これ、腰や肩と同じパターンだ」と思いました。同じ姿勢を長く続けた場所が、後から鈍い痛みで教えてくれる。首も例外じゃなかったんです。翌朝、車の運転席でバックミラーを見ようと振り向いたとき、いつもよりずっと動きが浅いことに気づいて、少し怖くなったのを覚えています。特養で働いていた頃も老健に移ってからも、記録台に向かう時間そのものは減らせません。だからこそ、体の向き合い方を変えるしかないと思ったんです。

壁を使って、首の角度を一度リセットする
気づいた夜から、記録を書き終えるたびに、そばの壁を使って首をリセットする時間を作るようにしました。
やり方は、後頭部と肩甲骨とお尻を壁につけて立ち、顎を軽く引きます。このとき顎を強く押し込む必要はなくて、「後頭部が壁から離れない程度」で十分です。その姿勢のまま10秒、呼吸を止めずにキープ。これを3回繰り返します。
続けて、首をゆっくり右に倒して10秒、左に倒して10秒。倒す角度は「痛気持ちいい」手前まででいいんですよね。無理に伸ばすと、かえって首まわりの筋肉が力んでしまうので、鼻から吸って口から吐く呼吸を止めないことだけを守っています。
最初にこれをやったとき、後頭部が思ったより壁から浮いていることに気づきました。まっすぐ立っているつもりでも、首だけ先に前へ出ていたんです。壁は正直だなと思いました。
全部で1分もかからないんですが、記録台に向かう前の首と、リセットした後の首では、次のページを覗き込む角度が違う感覚があります。夜勤の記録は何度も繰り返す作業だからこそ、1分の積み重ねが最後にじわっと効いてくるんですよね。

記録台の高さを、自分のために5cm上げる
姿勢のリセットと同じくらい効いたのが、記録台そのものを見直したことでした。
わたしの職場の記録台は、もともと座って書く高さに合わせてあって、立ったまま書くと自然と首が深く倒れる作りだったんです。それに気づいてから、使っていないクリアファイルを2冊重ねて、記録用紙の下に即席の傾斜をつけるようにしました。たったそれだけで、覗き込む角度が浅くなるんですよね。書きにくいかと思ったら、意外と手元の角度は変わらないので、慣れるまで数日もかかりませんでした。
それと合わせて、記録は「10分書いたら一度顔を上げる」を自分ルールにしました。書き終わってから顔を上げるのではなく、途中でも一度区切りをつける。タイマーではなく、ページの区切りや利用者さんの名前が変わるタイミングを合図にしています。
同僚の一人に「なんで書きながらキョロキョロしてるの」と聞かれたことがあります。笑いながら「首を休ませてるんです」と答えたら、その人も次の夜勤から真似し始めていました。一人でこっそり続けるより、誰かと分け合うと続けやすいことも、そのとき知りました。
続けやすさのために、完璧に守れなくてもいい、というのも自分に許可しています。3回に1回できれば十分、というくらいの緩さで続けているんです。1か月ほど続けたころ、朝の車の中でバックミラーを振り向く動きが、前より軽くなっている日が増えていることに気づきました。

母の顔を覗き込む癖にも、同じことが起きていた
この癖は、職場だけの話じゃありませんでした。
家に帰ってからも、母の表情を確認するとき、わたしは無意識に首から前に突き出すようにして顔を覗き込んでいたんです。認知症の進行がゆるやかな母は、日によって受け答えの速さが違うので、様子を見るためについ距離を詰めてしまう。でもその姿勢、記録用紙を覗き込むのと同じ角度でした。
先日、縁側で母と将棋を指していた夫が、盤面を挟んで自然と目線の高さを合わせているのを見て、はっとしたんです。夫は母の顔を覗き込むのではなく、椅子に座って目線をそろえていました。そのほうが、首への負担も、母から見た圧迫感も、たぶん少ないんですよね。母も、将棋の間はいつもよりゆっくり話している気がします。
中2の長女にも「お母さん、話すとき首だけ前に出てるよ」と言われたことがあって、家族に見られて初めて気づく癖もあるんだなと思いました。それから母と話すときは、なるべく椅子を持ってきて、母の顔と自分の顔の高さをそろえるようにしています。覗き込むのではなく、隣に並ぶ感じに近いです。
先月訪問に来たケアマネさんとの面談でも、同じことを意識してみました。テーブルを挟んで座り、資料を覗き込むのではなく、顔を上げたまま話す時間を増やしただけで、面談の後の首の張りが違ったんです。記録も、面談も、家族との会話も、首の角度はいつも自分で選べるんだと気づいた出来事でした。
首は、誰かを見るためにいちばん働いている場所かもしれません。あなたは今日、誰の顔を、どんな角度で覗き込んでいましたか?

理学療法士
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介護現場で12年の理学療法士です。夜勤明けの介護職員さんと家族介護中の方の隣で、続けるための体の整え方を配信します。 責めない温度感で記載します。
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