夜勤明けの申し送りを5行に絞ったら、朝の動き出しが30秒早くなった話
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夜勤明けの申し送りを5行に絞ったら、朝の動き出しが30秒早くなった話
特養の現場で主任を任されて、2 年目の春の話です。
朝 6 時 30 分、申し送り室。夜勤明けの介護福祉士さんが 2 人、ノートを開いて待っています。日勤に入る職員さんが、ややバタついた足音で入ってくる。夜勤明けの顔と、日勤の段取りを頭に組み立てている顔が、同じ部屋に並ぶ時間帯です。
「じゃあ、申し送りお願いしますね」
そこから、わたしのストップウォッチで、だいたい 4 分。
朝礼までの限られた時間に、夜の出来事・朝の優先順位・食事の注意・看護師さんへの申し送り・家族連絡。みんな大事です。みんな大事だから、書く側は「全部書こう」とがんばってくれていて、日勤側は「全部読もう」とがんばってくれている。でも、どこかで、朝の動き出しが少しだけ遅れていく。靴をはく前に、もう一度ノートに戻る人がいる。
「もう一度ノートに戻る」場面を、いくつかの朝、ただ眺めていた時期がありました。ある日、わたしは「あ、これは個人のがんばりの話ではなくて、書式の方を整えないと続かないやつだ」と気がついた、というだけの話です。
書式を変えたら、申し送り読了の時間が、平均で 30 秒短くなりました。これは、その経緯のメモです。
前の書式は、誰のせいでもなく重かった
前任の主任さんから引き継いだ申し送りノートは、A4 のベタ書き欄が 3 つでした。
- 上段: 夜勤帯の出来事(自由記述)
- 中段: 健康面の申し送り(自由記述)
- 下段: 連絡事項(自由記述)
ベタ書きは、書く人にとって自由度が高くて、書きやすい。だから「気になったこと、全部」が並びます。「A さん、夜中に 2 回トイレ、要観察」「B さん、食事ほとんど摂れていない、要観察」「C さん、表情少し硬い、要観察」と、要観察が連なる。
「要観察」自体は、悪い言葉ではないんです。書く側は「気にしてね」と渡してくれている。でも日勤に入る職員さんが、その「要観察」を 8 つ並べて読むと、朝の最初の動きが少し迷子になります。
「3 人目の人から先に見にいく?」「いや、食事介助の準備が先?」「主任に聞こう」「主任、まだ来てないな……」と、靴をはく前に、頭の中で順序を組み直し始める。
これは、書く人の問題でも、読む人の問題でもなくて、書式が「整理してから渡す」ではなく「全部書いて渡す」設計になっている、というだけの話でした。
書く人をどれだけがんばらせても、読む人が「全部読まないと、誰を先に見にいけばいいか分からない」設計から逃れられない。それは、書く側を疲れさせる前に、読む側の朝礼前の 30 秒を確実に削っていく構造です。

理学療法士として現場に入っていた頃の癖から
主任になる前、わたしは同じ法人の介護施設で、常勤の理学療法士として 10 年以上、評価とリハに関わっていました。
理学療法士の癖の一つに、「動作 + 順序で記録する」というのがあります。
たとえばリハの記録は、「右下肢、立ち上がりで膝折れあり。代償で体幹前傾 30 度。次回、座面を 5cm 高くして再評価」のように書きます。動作(何をしたか)+ 観察(何が起きたか)+ 次の段取り(次にどうするか) を 1 行にたたむ、という設計の文化です。書く側も、読む側も、その 3 つが揃っていれば「次に何をすればいいか」が分かる。詳細は別の評価シートに残せばいい、という割り切りもあります。
主任になって申し送りノートを書き直し始めたとき、わたしの頭の中には、この「動作 + 順序」の癖がまだ残っていました。
申し送りも、リハの記録と同じで「次に動く人が、次の 1 手に迷わないこと」が目的だ、と置いてみたら、書式の作り直しは、思ったよりシンプルにいきました。「気になったこと全部」を書く欄ではなくて、「次の 1 手」を書く欄。そう置き換えただけです。
ただし、これは「PT の流儀を介護現場に持ち込む」話ではありません。介護福祉士さんの観察の解像度は、PT のそれとは違う種類の専門性です。書式は、その観察を翻訳する入れ物の話で、観察の中身を変える話ではない。そこは、現場に入って何度も自分に言い聞かせました。

5 行に絞った申し送り書式
今、わたしの担当ユニットで使っているのは、こんな 5 行のフォーマットです。
- 昨夜の "気になった人" 1 番(最優先 1 人だけ)
- その人で、朝にやってほしい "1 つ"
- 食事・水分・服薬の "違いがある人" 一覧(フラグだけ)
- 看護師さんへ伝える 1 行
- 家族連絡が必要な人と、その用件
ポイントは 3 つです。
- 「優先 1 人」と「やってほしい 1 つ」の 2 行を最上段に置くこと
- 「フラグだけ」で詳細は省くこと
- 「伝える先」を必ず明示すること
実際にはこう書きます。
- A さん(102 号室)
- 朝食前に体重測定、結果をリーダーへ
- 食事減量フラグ: B さん(朝のみ)/ 水分多めフラグ: C さん/ 服薬時間変更: D さん
- 看護師さんへ: A さんの起き上がり時に右肩の痛み訴え、午前中に診ていただきたい
- 家族連絡: F さんのご家族へ、土曜日の面会時間の確認
これだけです。

夜の出来事の "全部" は、別ページの 夜勤日誌に詳細を書く運用にして、申し送り 1 枚は「翌朝に動く人が、次の 1 手に迷わない」だけに絞りました。
書く側は、ベタ書きから「優先 1 人を選ぶ」「やってほしい 1 つを書く」「フラグだけにする」が、一番むずかしかったです。最初の 1 ヶ月、夜勤明けの介護福祉士さんから「全部捨てるの、不安です」と言われました。「全部書いてあった方が、わたしが安心するんです」と。
その言葉は、わたしも納得できました。
だから、夜勤日誌に詳細を残す、というセットの仕組みを足しました。夜勤帯で気になったことは、夜勤日誌にこれまで通り全部書いてもらう。そのうち「翌朝の 1 手」になる行だけを、申し送り 1 枚に拾いあげる。整理は主任側(わたし)が、必要なら一緒にやる。
書式の引き算は、別ページの足し算とセットでないと、書く側に不安が残る、というのは、後から学んだことでした。

ストップウォッチで測ったら 30 秒短くなった
書式を変えてから 2 週間目、わたしはストップウォッチで申し送り読了までの時間を測りました。
- 旧書式: 平均 3 分 50 秒
- 新書式: 平均 3 分 20 秒
差は 30 秒です。
30 秒、と聞くと、小さい数字かもしれません。でも、申し送りは毎日 2 回あります(夜勤 → 日勤・日勤 → 遅番)。1 日 1 分、1 週間で 7 分、1 ヶ月で 30 分。
それより、現場で実感が大きかったのは、靴をはく前に「もう一度ノートに戻る」場面が、ほとんど消えたことでした。
動き出しの "つまずきの数" が減った、という肌感覚の方が、現場では効きました。
数字より、職員さんが朝礼の前に背筋を伸ばしている時間が、ちょっと長くなった気がする、という方が、本当の効果だったのかもしれません。
ここで、断っておきたいことが 1 つあります。
申し送り書式を変えたから事故が減った、と断定するつもりは、ありません。事故予防は、書式だけで動く話ではないし、わたしの担当ユニットの数字を、他の施設にそのまま持ち込めるとも思っていません。ここで書きたいのは、書く人と読む人の朝の負担の話に絞ります。それ以上のことを書き始めると、責任の取れない範囲に踏み込んでしまいます。

書式が機能しないケースも、ちゃんとあります
この 5 行書式が機能しないケースもあります。最初に書いておきます。
- ユニット内で急変が多発した夜: 優先 1 人だけ書くと、他の 2 〜 3 件が落ちます。こういう夜は、5 行を 8 行に増やして OK、というルールにしてあります。書式は守るものではなくて、現場が回るための道具です。
- 新人さんが夜勤に入った日: 新人さんは "気になったこと全部" を書きたがります。それは正解です。ベタ書きで全部書いてもらってから、主任が 5 行に整理する運用にしました。整理はベテランの仕事、観察は新人さんの仕事、という分担です。
- 施設の文化として詳細記録を残したい場合: 詳細は夜勤日誌に残せばいいので、申し送り 1 枚は引き算でいい。ただし、これは「整理を主任側で引き受ける覚悟」とセットです。覚悟がないまま書式だけ変えると、結局元に戻ります。
書式は 「整理を誰が引き受けるか」の合意の見える化 だと、わたしは思っています。
5 行は、申し送り以外にも転用できた
この「優先 1 + やってほしい 1 + フラグ + 伝える先 + 家族連絡」のフレームは、申し送り以外でも使えるようになりました。
- 家族面談前のメモ: 面談で伝える話題を 5 行に絞る。1 行目に "今日いちばん伝えたいこと"、2 行目に "それに対するお願い"、3 行目に "他のフラグ"、と並べる。面談後に「あれも言えばよかった」が減りました。
- ケアマネさんへの月次連絡: 1 ヶ月で気になった 5 行だけ送る。詳細はケース記録で共有。ケアマネさんの「読む側」の負担も減ったように感じています。
- 職員間のすれ違い解消メモ: お互いの言い分を、双方が "優先 1 + やってほしい 1" で書いてみる。これは難しいテーマなので、まだ試行中です。1 行で書くと、お互いの「本当に困っていること」が、少しだけ見えやすくなる印象はあります。
書式の引き算は、現場の感覚を「次の 1 手」に翻訳する練習になります。それを 1 日 2 回繰り返している場所が、申し送り室なのかもしれません。
あなたの現場で、最初に整える 1 行は?
書式を変えるのは、現場を責めることではありません。
書く人ががんばって書いてきた、その努力に、別の入れ物を用意するだけです。書く人の負担を増やさず、読む人の朝の 30 秒をちょっとだけ取り戻す。それが書式の役割だと、わたしは整理しています。
あなたの現場で、もし 1 行だけ書式を整えるとしたら、どこから始めますか?
わたしは「やってほしい 1 つ」の 1 行から、と答えます。これがあると、朝の動き出しが、ちょっとだけ静かになります。
そして、もし 5 行書式を試してみて、「うちには合わなかった」「3 行で足りた」「逆に増やした」というのが起きたら、それは正解です。書式は、現場が回るための道具で、現場が書式に合わせる話ではないので。
明日の申し送り、1 行だけ書き方を変えてみて、朝の靴の前で「もう一度ノートに戻る人」が少し減ったら、それで十分の収穫だと思います。

コメント1

しらすNs
@sirasukango
申し送り私も苦手なので このやり方ちょっと試してみようと思います。
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介護施設で 10 年以上、理学療法士として現場に入ってきました。主任さん・施設長さん・ケアマネさんが翌朝の申し送りで使える「段取り」を中心に、移乗・転倒予防・家族面談・引き継ぎノートの整え方を、現場を責めない温度でまとめます。
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