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現場スキル2026年7月3日4分で読める

ケアマネさんの初回訪問の前夜、A4一枚に枠を三つだけ書いた話

なかぴー@親の介護が始まった日のメモ
@family_care_life
目次

ケアマネさんが初めて家に来る、前の夜のことです。父の実家の台所で、わたしはA4のコピー用紙を一枚、テーブルに置いたまま、三十分ほど何も書けずにいました。明日、何を話せばいいんだろう。聞きたいことは山ほどあるはずなのに、いざ白い紙を前にすると、頭の中がぐちゃぐちゃで、一行も出てこない。冷蔵庫の低い音だけが、やけに大きく聞こえた——そんな夜の話です。

初めてケアマネさんを迎える前って、こういう「何から話せばいいか分からない」がいちばんしんどいんですよね。わたしも最初の一枚は、見事に空回りしました。その失敗と、そこから落ち着いた「枠を三つだけ書く」やり方を、同じ立場の家族として残しておきます。

「全部わかってもらわなきゃ」で、最初は空回りしました

退院前のカンファで、ケアマネさんとは一度会っていました。穏やかで、話しながら小さなノートにメモを取る、五十代前半の女性。だから初回の自宅訪問も大丈夫だと思っていたのに、いざ家に来てもらうと、わたしは父の発症からの三ヶ月を、時系列でぜんぶ話そうとして空回りしました。倒れた日のこと、救急車を呼んだこと、二週間の急性期、一ヶ月の回復期リハ、退院、今の右半身の麻痺……。話しながら、自分でも何が言いたいのか分からなくなっていきました。

しかも父が、すぐ隣のソファに座っているんですよね。「夜、トイレが間に合わないことがあって」と言いかけて、父の横顔を見て、言葉を飲み込みました。本人の前では言いにくいことが、思っていたよりずっと多かった。結局その日は、世間話と制度のざっくりした説明で時間が終わって、わたしが「いちばん困っていること」は何も伝えられないまま、玄関でお見送りしてしまいました。

車に戻って、ハンドルに手を置いたまま、少しだけ泣きました。段取りを組むのは仕事柄得意なはずなのに、自分の家のことになると、こんなにも整理できない。情けなくて、でも、どう準備すればよかったのかも分からなくて。

台所のテーブルで白い紙を前に固まる家族

A4一枚に、枠を三つだけ書きました

二回目の訪問の前に、わたしはやり方を変えました。きれいな文章はあきらめて、A4を一枚、横にして、太いペンで枠を三つだけ書いたんです。

一つ目の枠は「いま、いちばん困っていること」。三つまで、と決めました。あれもこれも書きたくなるのを我慢して、夜のトイレ、お風呂に入れること、わたしが通えない平日の昼の見守り、の三つに絞りました。三つに絞ると、自分でも「いま家がどこで詰まっているか」が、初めてはっきり見えた気がしました。

二つ目の枠は「父が大事にしていること」。これが意外と大事でした。父は将棋が好きで、人に指図されるのが何より嫌いな人。「できないことは手伝ってほしいけど、子ども扱いはされたくない」——その一行を書いておくと、サービスの選び方そのものが変わると、あとで分かりました。ケアマネさんは、その一行を見て「じゃあ、ここは無理に手を出さない形にしましょうか」と言ってくれたんです。

三つ目の枠は「わたし(家族)の事情」。車で四十分、週に三、四回が今の限界なこと。弟は遠方にいて、連絡もお金の窓口もわたし一人で抱えていること。フルタイムで働いていて、急には休めない日があること。「家族はどこまでできるのか」を先に出しておくと、組んでもらう体制が、見栄や理想ではなく、現実に即したものになりました。

書いてみて気づいたのは、三つの枠は結局「父のこと・父の気持ち・わたしのこと」だということ。父のことだけ早口で話していた一回目に、すっぽり抜け落ちていたのが、二つ目と三つ目でした。

A4の紙に枠を三つ書いて整理するイメージ

父の前で言えないことは、紙のいちばん下に小さく書きました

一枚にまとめても、本人の前で口に出しにくいことは残ります。夜の失敗のこと、お金のこと、「正直、わたしがしんどい」という本音。

わたしは、その手のことだけ紙のいちばん下に小さく書いて、訪問の終わりに玄関先で「これ、あとで見てください」と、折りたたんで渡すようにしました。父に聞こえないところで、ケアマネさんが「お気持ち、わかりました。これは私が預かりますね」と一言。それだけで、ずいぶん肩の力が抜けました。

ケアマネさんは、わたしが早口で全部説明しようとすると、いつも「一個ずつでいいですよ」と止めてくれました。初回のとき、制度の話より先に「お父さんより、まず——あなたは眠れてますか?」と聞かれたのを、今でも覚えています。あの一言で、ああ、この人には抱えていることを出していいんだ、と思えました。

紙に書く、というのは、たぶん感情のためでもあったんだと思います。口で言うと泣いてしまうことも、文字なら渡せる。父を裏切っているような気がして言えなかったことも、「困っていること」という枠の中の一項目にしてしまえば、ただの段取りの話になる。書くことで、自分の気持ちと事実を、少しだけ切り離せたんですよね。

玄関先でメモを折りたたんで渡す手元

一枚を渡してから、家の中が少し回り始めました

そのA4は、今は父の家の、電話の横に貼ってあります。ヘルパーさんも訪問看護師さんも、来た人がそれを見れば「この家がいま何に困っているか」がひと目で分かる。誰かが代わるたびに、ゼロから事情を説明しなくてよくなりました。これが、想像以上に楽でした。

もちろん、完璧なシートではありません。困りごとは月ごとに変わるので、わたしはときどき書き直しています。先月は一番上が「夜のトイレ」だったのが、今は「お風呂をどうするか」に変わりました。書き直すたびに、ああ、あの困りごとはひとまず形になったんだ、と、少しずつ前に進んでいる実感も持てます。

もし、これから初めてケアマネさんを迎えるご家族がいたら。きれいにまとめようとしなくて大丈夫です。枠を三つ書いて、困りごとを三つ。本人の前で言いにくいことは、紙の下に小さく。それだけで、初回の三十分は、ぜんぜん違うものになります。何を用意すればいいか迷ったら、担当のケアマネさんや地域包括支援センターに「初回までに準備しておくといいものはありますか」と先に聞いてみてください。たぶん、向こうも喜んで教えてくれます。

わたしも、まだ途中です。毎月、一番上の枠を書き直しながら通っています。あなたの家のその一枚なら、いちばん上の枠に、今日はどんな一行が入るでしょうか。

電話の横に貼られた手書きのメモ

#ケアマネジャー#在宅介護#介護の段取り
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