多職種カンファで「誰が決めるの?」が消えた、最初の1問を変えた話
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多職種カンファで「誰が決めるの?」が消えた、最初の1問を変えた話
特養の現場で、月に一度の多職種カンファに同席していた、ある時期の話です。
その日のカンファには、主任さん、介護福祉士さん、看護師さん、ケアマネさん、そしてわたしが理学療法士として、円卓に並んでいました。議題は、最近食事のときにむせが増えてきた、ある入所者の方のこと。みんな、その方を心配して集まっています。
ところが、30 分話しても、テーブルの上の空気が、なんだか宙に浮いたままなんですよね。
「やっぱり姿勢の問題もありますよね」「水分にとろみを足した方が」「ご家族にも一度お伝えして」。出てくる意見は、どれも大事です。みんな、いい話をしている。でも会が終わると、誰かがぽつりと言うんです。「で、結局、明日から誰が何をするんでしたっけ」と。
そのひと言が出るたびに、わたしは「ああ、また宙に浮いたな」と思っていました。これは、その宙づりが、どこで起きていたかのメモです。
「どうしましょうか」で始めると、誰も着地できない
カンファが宙に浮く原因を、わたしはしばらく「話が長いから」だと思っていました。でも、たぶん違ったんです。
宙に浮くカンファには、共通点が一つありました。最初の 1 問が、いつも「どうしましょうか」だったんです。
「Aさんのむせ、どうしましょうか」。一見、ちゃんとした問いに見えます。でも、この問いは、答える人を決めていない。だから、その場にいる全員が、それぞれの専門のレンズで、それぞれに正しい意見を出し始めます。看護師さんは健康面から、介護福祉士さんは毎日の食事介助から、わたしは姿勢から。みんな正しいから、どれも消えない。意見が積み重なるほど、「で、誰が決めるの」が遠ざかっていく。
「どうしましょうか」は、相談の入り口としては優しい言葉です。でも、決めるための問いではないんですよね。決めるためには、その手前で「今日、ここで何を決めるのか」を、一行に絞る必要があった。それに気づくのに、わたしはずいぶん時間がかかりました。

理学療法士の癖で、「今日決めること」を1行に置いた
主任になる前、わたしは同じ法人の介護施設で、常勤の理学療法士として 10 年以上、評価とリハに関わっていました。
理学療法士の仕事には、リハの計画を立てるときに「今日の目標を 1 つに絞る」という癖があります。立ち上がりも歩行も移乗も、全部いっぺんには良くなりません。だから「今日は、座面の高さを 5cm 上げて、立ち上がりの膝折れを見る」のように、評価の的を 1 つに決めてから、その場に臨みます。的が 1 つだと、見る人も、手伝う人も、何を確認すればいいかが揃う。
その癖が残っていたので、わたしはあるカンファで、最初の 1 問をそっと置き換えてみました。「どうしましょうか」ではなく、「今日この会で決めたいのは、明日からの食事の姿勢を、誰がどう整えるか、の 1 点です」と。
そうしたら、議論の向きが変わりました。意見を出す前に、みんなが「その 1 点について自分が言えること」を選んで話し始めたんです。看護師さんは「むせの頻度の記録の取り方なら出せます」、介護福祉士さんは「食事介助のときの声かけのタイミングを変えられます」、と。話が、的に向かって集まっていく感じがありました。
ただ、これは「PT のやり方が正しい」という話ではありません。介護福祉士さんがその方の食事を毎日見ている解像度は、わたしの姿勢の見立てとは別の種類の専門性です。1 問を絞るのは、その専門性を並べる順番を整える話であって、誰かの専門を上に置く話ではない。そこは、何度も自分に言い聞かせました。

わたしがカンファの最初に置く3行
今、わたしが多職種カンファの冒頭で、ホワイトボードの上の方に書くようにしているのは、この 3 行です。
- 今日この会で決めたいこと(1 点だけ)
- 決めたあと、明日から動く人と、その 1 手
- 次に集まって見直すのは、いつか
ポイントは 3 つあります。
- 「決めたいこと」を会の最初に 1 行で書き、終わるまで消さないこと
- 「誰が・何を・明日から」までを、その場で言葉にすること
- 「いつ見直すか」を決めて、決定を仮置きにしておくこと
3 つ目が、地味だけれど効きました。「いつ見直すか」を決めておくと、その場の決定が「これで一生決まり」ではなく「次の見直しまでの仮置き」になります。仮置きだと分かっていると、みんな少し気楽に決められる。完璧な答えを出さなくていいんだ、と思えると、円卓の空気が、ふっとやわらかくなるんですよね。

1問に絞れないケースも、ちゃんとあります
この「最初の 1 問を絞る」やり方が、うまくいかないケースもあります。先に書いておきます。
- 急変や体調の変化が絡む議題: 健康面の判断が中心になる場面では、決める軸は看護師さんや医師の見立てが先に立ちます。わたしが姿勢の話で 1 問を絞ろうとすると、かえって順番を乱します。この場合は、わたしは「決めたあと、姿勢の側で何を足せるか」の席に回ります。
- ご家族の意向がまだ揺れている議題: 家族面談の前に、施設側だけで 1 問に絞ると、決めた答えが家族の思いとずれることがあります。こういうときは「今日決めるのは、家族に何を確認するか、まで」と、決める範囲そのものを手前に置きます。
- そもそも情報が足りない議題: 観察の材料がそろっていない段階で 1 問に絞ると、薄い結論になります。その日は「次の 2 週間で、誰が何を観察してくるか」だけを決めて、判断は次回に送る。決めないことを決める、というのも、立派な着地です。
最初の 1 問は、議論を縛る道具ではありません。その日に着地できる場所を、みんなで先に見ておくための、ただの目印です。
決めるのは順番、立てるのはみんなの専門
最後に、役割分担のことを書かせてください。
カンファで宙に浮いていたのは、誰かの力不足ではありませんでした。むしろ逆で、その場にいる全員が、自分の専門から「正しいこと」を出せる人たちだったから、意見が消えずに積み上がっていたんです。足りなかったのは、その正しさを並べる順番を、最初に決める一行だけでした。
わたしが理学療法士としてできるのは、姿勢や動作の見立てを 1 つ出すこと、そして「今日はこの 1 点を決めましょう」と、議論の的を置くお手伝いをすること。健康の判断は看護師さんへ、毎日の介助の現実は介護福祉士さんへ、サービス全体の調整はケアマネさんへ。一人ひとりの専門は、並べる順番が決まると、ちゃんと噛み合いはじめます。
あなたの現場のカンファで、いちばん宙に浮きやすいのは、どの議題でしょうか。
わたしは、まず「今日この会で決めたいことは、何ですか」を、いちばん最初にホワイトボードへ書くところから始めます。それだけで、会の終わりに「誰が決めるんでしたっけ」が、ひとつ減ります。

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介護施設で 10 年以上、理学療法士として現場に入ってきました。主任さん・施設長さん・ケアマネさんが翌朝の申し送りで使える「段取り」を中心に、移乗・転倒予防・家族面談・引き継ぎノートの整え方を、現場を責めない温度でまとめます。
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