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セルフケア2026年9月24日約5分で読める

弟が退院後はじめて実家に来た土曜日、わたしは午後2時に実家を出た

な
なかぴー@親の介護が始まった日のメモ
@family_care_life
弟が退院後はじめて実家に来た土曜日、わたしは午後2時に実家を出た
目次

土曜の午前10時半、実家の玄関のチャイムが鳴りました。弟です。新幹線で2時間、子どもたちを家に置いて、一人で来ました。父が退院してから、弟が実家に来るのは初めてでした。

父は居間の座椅子で、装具を着けた足を投げ出して新聞を読んでいました。弟が「おう」と言い、父が「おう」と返す。それから弟は、台所にいるわたしの方を向いて言いました。

「なんだ、元気そうじゃん」

わたしは、昼のうどんを煮ていた手を止めました。何か言おうとして、やめました。代わりにその日、わたしは午後2時に実家を出ました。夕方6時まで、父と弟を二人にしました。

今日は、その4時間のことを書きます。

「元気そうじゃん」は、嘘ではなかった

弟が見た父は、たしかに元気そうでした。座椅子に座って、新聞を読んで、「火曜と木曜はデイで将棋だ」と少し得意そうに話す父。弟が来ると、父はしゃんとします。人に弱いところを見せない人なので、息子の前ではなおさらです。

でも、弟が来た10時半は、わたしが朝8時に着いてから、父の身支度と朝食と、トイレの往復2回と、装具の着け直しを終えたあとの時間でした。座椅子に座っている父は、いわば「今日の一番いい時間の父」なんですよね。

弟が見たのは午前11時の父で、わたしが見ているのは、朝8時から夜8時までの父です。どちらも本当の父で、弟は嘘を言ったわけではありません。

それでも、胸のどこかがきゅっとしました。少し前、弟に「もっと帰ってこられない?」とLINEで送って、既読のまま返事がなかった夜のことを思い出したからです。あのときは、言葉で伝えようとして、伝わらなかった。

うどんを煮ながら、考えました。ここで「昼間しか見てないでしょ」と言えば、たぶんまた同じことになる。説明で分かってもらうのは、もう一度やっても、届かない気がしました。

だったら、見せるのではなく、代わってもらおう。そう思ったのは、うどんが煮えるまでの、5分くらいの間でした。

座椅子で新聞を読む父と、台所から見るわたし

「見ていて」ではなく「2時から6時、頼んでいい?」と言った

昼食のあと、台所で洗い物をしながら、弟に言いました。

「2時から6時まで、わたし出るね。お父さんのこと、頼んでいい?」

弟は「え、いいけど。何すればいいの」と言いました。

本当は、その日の予定は「弟に見てもらう」でした。父の立ち上がりを横で見てもらって、トイレの往復を見てもらって、夕食のむせを見てもらう。そういう見学の日にするつもりだったんです。でも見学は、見ている側が「大変そうだね」で終わってしまう。それはこの3ヶ月、職場でも、電話をくれる親戚にも、何度も味わってきたことでした。

だから、渡すことにしました。ただし、全部ではなく、4時間だけ。夜の入浴や寝る前の薬は、まだ渡しません。明るい時間で、ヘルパーさんが来ない土曜の午後で、わたしが車で10分の場所にいる。その範囲で渡す、と決めました。

口で説明したのは、三つだけです。

一つ、父が立つときは、手を出さずに横に立つ。これは訪問リハの先生に「ご家族は見守るだけで十分ですよ」と教わって、うちで守っていることです。二つ、トイレのときは、行きも帰りも、廊下の手すりと反対側に立つ。三つ、夕食は、父が急いだら「ゆっくりでいいよ」と一言。むせたら、無理に続けさせない。

そして、実際に一度だけ見せました。2時前に父がトイレに立ったとき、弟に「横で見てて」と言って、わたしが廊下でいつもやる通りにやりました。父は「見せもんじゃない」と言いましたが、止めませんでした。

最後に、電話の横に貼ってある紙を指さしました。父が「めまいがする」と電話してきた夜のあと、連絡する順番を書いて貼ったものです。「何かあったら、この順番。わたしの携帯は何回鳴らしてもいいから」

弟は紙を写真に撮って、「わかった」と言いました。少し声が低くなっていました。

わたしは、2時5分に実家を出ました。

電話の横の紙を指さして弟に渡す場面

4時間、電話は一度も鳴らなかった

実家を出て、どこへ行ったかというと、車で10分の市の図書館の駐車場です。本を読むつもりで行きました。

でも、車のシートを倒したら、そのまま1時間近く眠ってしまいました。目が覚めて、携帯を見て、着信がないことにほっとして、それから少し不安になりました。「何も起きていない」のか、「弟が電話できずにいる」のか、ここからでは分からないんですよね。

一度だけ、LINEを送りました。「どう?」とだけ。返事は「トイレ2回目。こわい」の一行でした。

その後はスーパーで父の来週分の買い物をして、5時50分に実家に戻りました。

台所のシンクに、湯呑みが二つ。夕食は途中で、父の茶碗の横に、弟の茶碗もありました。弟は父の斜め前に座って、父がお茶を飲むのを、じっと見ていました。

「どうだった?」と聞くと、弟は先にこう言いました。

「立つとき、手ぇ出しちゃった。親父に『早い』って怒られた」

父が横から「こいつは手が早すぎる」と言いました。少し嬉しそうでした。

それから弟は、トイレが3回だったこと、2回目で廊下で父がふらついて心臓が縮んだこと、夕食で一度むせて背中をさするしかできなかったことを、順番に話しました。わたしは、うなずいて聞いていました。

「元気そうじゃんって言ったよね」とは、言いませんでした。言わなくても、弟の顔がもう言っていたからです。

夕食の途中、父の斜め前に座って見ている弟

言葉で伝わらなかったことが、4時間で届いた

弟は7時の新幹線で帰りました。駅まで送った車の中で、弟は「腕、張ってる」と言いました。「姉さん、毎日これなの」と。

わたしは「毎日じゃないよ。週に3、4回」と答えました。それが精いっぱいの、正直な答えでした。

夜、家に着いてから、弟のLINEが来ました。

「来月も同じ土曜、同じ時間で行く。2時から6時」

この3ヶ月、弟には、LINEで3行に絞った報告を送り、月に1回、家族会議の時間を作ってきました。それは今も続けています。でも、きょうだいに介護を伝えるのに、言葉には限界があったんだと思います。「トイレの往復に見守りが要る」という1行と、廊下で父がふらついたときの心臓の縮み方は、別のものなんですよね。

次の家族会議で、弟から議題が出ました。「月1の土曜午後は自分が持つ。それ以外の週は、今まで通り姉さん」。それで実働が変わるわけではありません。月に4時間です。でも、「元気そうじゃん」と「毎日これなの」の間にあった距離は、あの日、少し縮まりました。実家のカレンダーの来月の土曜に、「弟 2〜6」と書いてみています。

一つだけ、先にしておいてよかったことがあります。弟が来る前の週、ケアマネさんに「弟に半日だけ父を任せても大丈夫でしょうか」と電話で聞いていたことです。ケアマネさんは「いいと思いますよ。一個だけ、緊急のときの連絡先の場所を、弟さんに伝えておいてくださいね」と言ってくれました。あの紙を指さしたのは、その一言があったからです。

弟がむせに背中をさするしかできなかったことは、次の訪問看護の日に、看護師さんに聞きました。父の場合の対応を教えてもらって、電話の横の紙の下に、1行足しました。

遠くにいる家族に、どこまで任せてよいかは、家ごとに違うと思います。迷うときは、担当のケアマネさんか、地域包括支援センターに「半日だけ任せたい」と、そのまま聞いてみてください。うちは、それで安心して出られました。

遠くに住むきょうだいに、家族の方が渡せる「4時間」は、1日のどこにありますか。

駅のホームに向かう弟の後ろ姿

#きょうだい#遠距離介護#在宅介護#家族介護
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