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セルフケア2026年9月9日約6分で読める

家が静かになった土曜の午後、掃除機を握っていたわたしが休む許可を出すまで

あさひ
あさひ
@kaigo_health
家が静かになった土曜の午後、掃除機を握っていたわたしが休む許可を出すまで
目次

土曜の 13 時 10 分。長女はバスケの試合で朝から出かけていて、下の子は夫が公園に連れて行きました。母は昼ご飯のあと、縁側の椅子でうとうとしています。

家が、静かでした。

そしてわたしは、気づいたら廊下で掃除機を握っていました。前の日は夜勤明けで、9 時半に施設を出て、洗濯物を干して、そのまま昼まで眠れなかった体です。「今のうちに」。そう思って、掃除機のスイッチに指をかけていました。

この記事は、介護職員さんと、家で家族を介護している方の両方に向けて書いています。夜勤明けでも、休みの日でも、「休める時間が来たのに休めない」体を持っている方へ。理学療法士として介護現場に 12 年以上、いまは実家で母の家族介護もしています。そのわたしが、休む許可を自分に出すまでの話を書きます。

「今のうちに」が、体の口癖になっていました

掃除機のスイッチを入れる直前に、手が止まりました。止まった理由は、たぶん夜勤明けの腰の重さです。腰が「まだやるの」と言った感じでした。

それで、リビングの椅子に座ってみたんです。

座ってすぐに気づいたのが、足の指でした。靴下の中で、指が床をつかむように握られていました。奥歯も閉じていました。太ももの前が、座っているのに硬いままでした。

これは、休んでいる形ではないんですよね。「待機」の形です。

特養の夜勤で、コールが鳴らない 20 分があると、わたしは記録を進めます。座っていても、次のコールで立てるように、足は床をつかみ、顎は閉じたままです。12 年、その姿勢で「空いた時間」を過ごしてきました。体はそれを、休みではなく準備の時間として覚えています。

職場の休憩室で、介護福祉士さんの座り方を見ていても同じです。椅子に座っているのに、片方のかかとが浮いていて、いつでも立てる形をしています。人の体の使い方を見るのが仕事なのに、自分の体が同じ形をしていることには、この土曜まで気づきませんでした。

家に帰っても、同じでした。母が縁側で眠っている 30 分は、体にとっては「コールが鳴るまでの 30 分」でした。だから、家が静かになった瞬間に、手が掃除機を探したのだと思います。

休む時間は、ありました。休む体が、なかったんです。

静かな午後に掃除機を握ったまま椅子に座る

カレンダーに、母の通院と同じ色で「休み」と書きました

その日の夕方、冷蔵庫の横のカレンダーの前に立ちました。母の通院日を書く赤いペンを取って、次の土曜の午後の欄に、こう書きました。

「13-15 わたし」

書いた瞬間、少し恥ずかしかったです。母の通院と、長女の試合と、下の子の歯医者のあいだに、自分の名前だけの予定が並ぶのは、初めてでした。

夫は前から「今日はもう寝てて」と言ってくれる人です。ただ、言われても休めなかったんですよね。言葉は、その場で消えます。カレンダーは、消えません。家族が冷蔵庫を開けるたびに、そこに「わたし」がいます。

その夫は、カレンダーを見て「いいじゃん」と一言だけ言いました。口数の少ない人なので、それで十分でした。次の土曜に下の子を公園へ連れて行くのは、言わなくても夫の予定になっていました。

下の子が「ママ、休みってなに? どこか行くの?」と聞きました。「どこにも行かない。座ってる」と答えたら、変な顔をしていました。長女はスマホから目を上げて「へえ」とだけ言いました。

母は、夕食のあとにカレンダーを見て、「あんたのも書いてあるのね」と言いました。それだけでした。でも、その一言で、わたしは少し許された気がしました。

休む許可は、自分の中で出すものだと思っていました。3 年間、心の中で「休んでいい」と唱えても、体は動き続けました。実際に許可が下りたのは、家族に見える形で、紙に書いたときでした。

許可は、心ではなく、紙に書きました。

冷蔵庫横のカレンダーに赤いペンで書き込む手元

20 分だけ、体を「待機」から下ろす手順

次の土曜、13 時。同じように家が静かになって、わたしはリビングの椅子に座りました。今回は、掃除機ではなく、キッチンタイマーを手に持って。

座り方から書きますね。背もたれのある椅子に、お尻を奥まで入れて座ります。足の裏は、かかとから指先まで全部床につけます。ここまでは、いつもの「待機」と同じです。ここから、3 つだけ下ろします。

1 つ目は、足の指です。靴下の中で、指をぎゅっと握って 3 秒、ぱっと離します。これを 5 回。離したあとの指が、床の上でほどけているのを確かめます。

2 つ目は、顎です。奥歯を離して、舌を上顎から下ろします。口は少し開いていて構いません。移乗のたびに奥歯を噛んでいる方、多いと思います。わたしもです。その噛みしめを、いったん下ろします。

3 つ目は、手です。両手を太ももの上に、手のひらを上に向けて置きます。手のひらが上を向くと、肩が前に閉じにくくなります。移乗のとき、わたしたちの手のひらはいつも下を向いています。相手の背中や腰を支えるためです。手のひらを上に向けるのは、この 20 分は誰も支えないという、体への合図でもあります。

それから、タイマーを 20 分にセットして、何もしません。

ラジオは、つけていいことにしました。夜勤明けに洗濯物を干しながら聞いているラジオです。眠ってしまったら、それでいいことにしました。

なぜ足の指と顎かというと、立ち仕事と介助の体で、最後まで残るのが踏ん張りと食いしばりだからです。腰や肩をほどいても、足の指が床をつかんでいる限り、体は「次に立つ準備」をやめません。逆に、足の指と顎が下りると、太ももの前と首の力が一緒に抜けていくことが、わたしの体ではありました。

正直に書くと、最初の土曜は 20 分もちませんでした。8 分で洗濯機の終了音が鳴って、立ち上がっていました。2 週目は、母が「お茶飲む?」と縁側から声をかけてくれて、13 分。3 週目に、やっと 20 分座れました。

休むのも、練習でした。

20 分たって立ち上がったとき、太ももの前が、座る前より軽かったです。腰も、いつもの「まだやるの」を言いませんでした。これは、わたしの体での話です。同じ 20 分でも、皆さんの体は、違う場所からほどけていくかもしれません。

座っている途中で、足の指がまた床をつかんでいるのに気づいたら、それに気づくだけでいいですよ。もう一度ぎゅっと握って、離す。それだけで、また「待機」から下りられます。

椅子に深く座り手のひらを上に向けて休む姿

3 年かかった許可を、あなたはもう少し早く

父が亡くなって、実家を二世帯にして、夫と子どもたちと引っ越してきてから 3 年です。夜勤を続けながら、母の介護を始めて 3 年。休む許可を自分に出すのに、ちょうど同じだけかかりました。

介護職員さんも、家族介護をしている方も、たぶん同じ考えを持っています。「自分が止まったら、回らない」。わたしもそうでした。母のことでケアマネさんと話すとき、母の夜の様子は細かく伝えるのに、自分が眠れていないことは、一度も言いませんでした。

そのケアマネさんは、母の話を聞き終えたあとに「それで、あなたは眠れていますか」と聞いてくれる人でした。わたしはいつも「大丈夫です」と答えていました。大丈夫ではなかったのに、その言葉だけは、待機の姿勢のまま出てきました。

でも、体のほうが先に合図を出すんですよね。夜勤明けの腰、掃除機を探す手、靴下の中で握られた足の指。燃え尽きは、ある日突然来るものではなくて、「今のうちに」を 3 年積み重ねた先にあるものだと、今は思っています。

週に 1 回、一人で行く銭湯があります。今思えば、あれが最初の許可でした。ただ、銭湯は「行く」という動作があるので、体は待機のままでした。座って何もしない 20 分のほうが、わたしにはずっと難しかったです。

休むことは、介護から離れることではなくて、介護を続けるための仕事の一部です。続ける選択も、離れる選択も尊重したうえで、続けるなら、休む時間をカレンダーに書く。それが、12 年目のわたしのセルフケアです。

あなたのカレンダーに、あなたの名前で書いてある予定はありますか。

まだなければ、今週のどこかの 20 分に、赤いペンで自分の名前を書くところから始めてみてくださいね。

家族の予定の中に自分の名前が並ぶカレンダー

理学療法士

#燃え尽き#セルフケア#休み方#家族介護#夜勤明け
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介護現場で12年の理学療法士です。夜勤明けの介護職員さんと家族介護中の方の隣で、続けるための体の整え方を配信します。 責めない温度感で記載します。

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