父の通帳を「頼むな」と渡された日から、姉弟で揉めずにお金を整えた順番
目次
父の通帳を「頼むな」と渡された日から、姉弟で揉めずにお金を整えた順番
「これ、頼むな」
父の家の台所で、退院から少し落ち着いた頃に、父がそう言って、通帳と印鑑の入った古い小箱を、わたしの方へすっと押し出しました。
長く市役所に勤めて、書類も通帳も印鑑も、ぜんぶ自分できっちり管理してきた人です。その父が、自分の手で、自分のお金の管理を娘に渡した。あの一言の重さを、わたしはたぶん一生忘れません。
なかぴー、52 歳、ふつうの会社員です。中堅メーカーの総務部で係長を、28 年勤めてきました。3 ヶ月前、地方で一人暮らしをしていた父(79 歳)が脳梗塞で倒れて、わたしの通い介護がはじまりました。新幹線で 2 時間の距離に弟(48 歳)がいますが、共働きで子育て中、実働は通えません。お金もケアマネ連絡も、窓口はわたし 1 人です。
介護の段取りより、お金の話のほうが、よっぽど怖かったんですよね。今日は、父のお金を預かった日から、姉弟で揉めずに整えていった順番を書き残します。
完璧にやる、というのは諦めました。 「やる気がない日でも 1 つだけ拾える」設計にしてあります。
その前に 1 つだけ。お金や手続きの正確なところは、地域の社会福祉協議会や地域包括支援センター、専門の方に確認してくださいね。わたしは専門家ではなく、同じ立場の家族として、自分が通ってきた順番を共有するだけです。
「通帳を預かる」が、いちばん家族の手が止まる場面
介護の段取りは、ケアマネさんや地域包括が道しるべになってくれます。でも、お金だけは、誰も「こうしなさい」と言ってくれないんですよね。
父の通帳を預かった夜、わたしの頭に浮かんだのは、こんな不安でした。
- このお金、勝手に動かして大丈夫なのか
- 父の年金で、デイやヘルパーの費用は回るのか
- もし施設になったら、いくらかかるのか
- 弟に、どこまで・どうやって伝えればいいのか
- 「お姉ちゃんが全部使ったんじゃないか」と、あとで言われたりしないか
最後の 1 つが、いちばん胸に刺さりました。父のためにやっているのに、いつか疑われるかもしれない、という不安です。
でも、これは順番に整えれば、ほどけます。怖いのは「全部いっぺんに」考えるからで、1 つずつ置けば、ちゃんと手が動きます。

わたしが整えた、お金の 4 つの順番
「これが正解」ではありません。ただ、預かったお金の不安が、少し軽くなった 4 つです。順番が大事なので、番号で整理します。
1. まず「父のお金は父のもの」と、紙の上で線を引く
最初にやったのは、難しい手続きではなくて、気持ちの整理を紙に書くことでした。
父の通帳から出すのは、父のための支払いだけ。自分の財布とは絶対に混ぜない。これを自分のルールとして、ノートの 1 ページ目に書きました。
そのうえで、父の家に古いノートを 1 冊置いて、「いつ・何に・いくら使ったか」を、3 行だけ書くようにしました。デイの費用、紙おむつ、通院の交通費。レシートは封筒にまとめて、月ごとに分けるだけ。
これは弟のためでもありますが、いちばんは自分を守るためでした。記録があると、「疑われたらどうしよう」という夜の不安が、ぐっと小さくなったんですよね。
2. 「当面の固定費」だけ、ざっくり見える化する
次に、毎月かならず出ていくお金を、ざっくり一覧にしました。
- 介護保険のサービス費(デイ・ヘルパー・福祉用具のレンタル)
- 父の生活費(光熱費・食費・新聞)
- 通院と薬の費用
- 家の維持にかかるもの
全部を 1 円単位で正確に、ではありません。「だいたい毎月これくらい出る」が見えれば十分です。父は年金生活なので、その範囲で回るのか、足りないのか。これが見えるだけで、「お金が尽きるかも」という漠然とした怖さが、具体的な数字に変わりました。
正確な負担額や、使える軽減の仕組み(高額介護サービス費など)は、ケアマネさんや市区町村の窓口に確認するのが確実です。わたしも、ひとつずつ教わりながら埋めました。

3. 弟には「金額」より先に「やり方」を共有する
ここが、姉弟で揉めるかどうかの分かれ目でした。
最初、わたしは弟に「父のお金、これくらいかかってるよ」と金額から伝えようとしました。でも、それだと弟は身構えるし、わたしも「請求してるみたい」で気が重い。
そこで、伝える順番を変えました。金額より先に、「こういうやり方で管理しているよ」を共有したんです。
- 父のお金は父のためだけに使っていること
- ノートに記録を残していること
- 通帳のコピーは、いつでも見られるようにしてあること
「お姉ちゃん、そこまでしてくれてるんだ。ありがとう、任せちゃってごめん」。弟からそう返ってきて、ようやく肩の力が抜けました。お金の話は、信頼の話から始めると、ずいぶん穏やかになります。
4. 「分担をどうするか」は、月 1 の家族会議で、記録に残して決める
そのうえで、施設になった場合の費用や、大きな出費の分担をどうするか。これは、LINE のやりとりだけで決めると、あとで「言った・言わない」になりがちです。
わたしは弟に、月 1 回、15 分でいいからオンラインで家族会議をしよう、と提案しました。父の様子の共有と、お金の相談を、同じ場で。決めたことは、簡単な箇条書きで両方に残します。
「動くのは任せるから、お金は出すよ」。弟がそう言ってくれたのは、ありがたいことでした。でも、その「出すよ」を口約束にせず、いつ・何を・どう分けるかを記録に残す。これは弟を疑っているからではなくて、お互いを、未来の気まずさから守るためです。

完璧にやらなくていい設計
ここまで読んで、「4 つ全部やる余裕はない」と思った方もいるかもしれません。
正直に言うと、わたしも記録が 1 週間飛んだ月もあれば、家族会議が予定だけで流れた月もあります。レシートが封筒からあふれて、見ないふりをした夜もありました。
それでも、4 つを「やる順番として知っているだけ」で、お金の不安がずいぶん違いました。「ちゃんと管理できているか」ではなく、「次にやる 1 つは何か」が見えていること。それが、お金の怖さがいちばん効いてくる時期には、いちばん助けになります。
「親のお金に手をつけるなんて」と、自分を責めなくて、いいんです。父が「頼むな」と託したのは、責められる役目ではなくて、信じて任せた役目です。家族側も、はじめての場面に立っている人だから。

4 つの外側に、もう 1 つ
4 つの段取りの外側に、もう 1 つだけ書いておきたいことがあります。
それは、父の「判断する力」が落ちる前に、知識だけ集め始めておく、ということです。今の父は、おおむねしっかりしています。でも、もし将来そうでなくなったときに、通帳を預かるだけでは足りない場面が来るかもしれない。
日常的なお金の出し入れを手伝ってくれる社協のサービスや、判断力が落ちたときに備える後見の仕組みがある、と聞いています。今すぐ使うわけではありません。でも、「そういう道がある」と名前だけでも知っておくと、いざという夜の足取りが、少しだけ軽くなります。これも、社協や地域包括で、落ち着いて相談できることでした。
あなたの家では、お金のどこが、いちばん詰まりそうですか?
通帳を預かる、固定費を見える化する、やり方を共有する、分担を記録に残す。
もし 1 つだけ始めるとしたら、わたしは「父のお金は父のもの、と紙に線を引く」から、と答えます。これがあると、夜の「疑われたらどうしよう」が、ずいぶん静かになります。
お金の正確なところは社協や市区町村に、後見の仕組みは社協や地域包括に。介護の段取りはケアマネさんに、確認してくださいね。
1 つだけ拾って、明日試してみていただけたら、それで十分の収穫だと、わたしは思っています。
今日 1 個、進められますように。
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