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発信のすすめ

モヤモヤは書くと軽くなる — 介護職のためのジャーナリング(書く整理)入門

執筆: けありんぐ編集部介護福祉けありんぐ 編集部

モヤモヤは書くと軽くなる — 介護職のためのジャーナリング(書く整理)入門

要点

  • ジャーナリング(書く整理)とは、頭の中の感情や出来事を、誰にも見せずに紙やスマホに書き出すこと。介護福祉けありんぐでの「発信」とは別物で、公開しないぶん、もっと生々しく書ける。
  • 感情を書き出す行為(心理学では expressive writing と呼ばれる)は、ストレスや落ち込みの軽減と関連づけて研究されてきた歴史があり、医療・介護分野を含む複数の研究で扱われている。ただし個人差があり、万能の解決策ではない。
  • やることは、1回15〜20分、つらかった・モヤモヤした出来事について「事実」「感情」「そのとき考えたこと」の3つを、誰かに見せる前提を外して書くだけ
  • 書く整理(非公開)→ 落ち着いたら発信(公開) という2段階に分けると、感情の生々しさを安全に扱いながら、発信のハードルも下がる。
  • 費用は0円。夜勤明けのコーヒー1杯分の時間で始められる。書けなかった日があっても失敗ではない。

夜勤明けの帰り道、なぜか涙が出そうになったことはありませんか。利用者さんに強い言葉を返してしまった自分に落ち込んだ夜、後輩の失敗を見て「自分も同じだった」と胸が痛んだ休憩時間——介護の現場は、感情が動く場面の連続です。けれど、その感情を誰かに話す時間も相手も、いつもあるとは限りません。

そんなとき、「書く」という行為そのものに、モヤモヤを軽くする働きがあるという考え方があります。心理学の世界では「expressive writing(感情の言語化としての書くこと)」と呼ばれ、1980年代から研究が積み重ねられてきました。ただし、ただ思いついたことを書き殴ればいいわけではありません。続けやすさを左右するコツがあり、この記事の後半で、つまずきやすいポイントとあわせて具体的に紹介します。

本記事では、この「書く整理=ジャーナリング」を、介護福祉けありんぐでの発信とは別の、もっと私的な自分のための習慣として紹介します。「発信はハードルが高いけど、まず自分のために書いてみたい」という方に向けた入門編です。

ジャーナリングと「発信」は何が違う?

いちばんの違いは「誰かに見せるかどうか」です。発信は仲間に届ける言葉、ジャーナリングは自分にだけ向けた言葉です。

「文章が苦手」でも発信はできるでは、発信の文章に完璧さは要らないと伝えました。ジャーナリングは、そこからさらに一歩手前にあります。読み手が存在しない前提で書くので、体裁も、誤字も、支離滅裂な感情の吐き出しも、まったく気にしなくていい。この違いを整理すると、次のようになります。

発信(けありんぐへの投稿)ジャーナリング(書く整理)
読み手同じ現場で働く仲間自分だけ
目的経験・工夫を分かち合う感情・出来事を整理する
書く内容誰かの参考になる形に整えた経験整えていない、生の感情・思考
公開するしない
気をつけること個人特定・誹謗中傷・医療的断定への配慮特になし(自分用のメモ)
向いている場面現場の工夫を残したいときしんどい・モヤモヤしたとき

発信とジャーナリングを読み手・目的・公開の有無で対比した図解。発信は同じ現場の仲間に向けて経験を分かち合い個人特定等への配慮が必要、ジャーナリングは自分だけに向けて感情や出来事を整理する非公開の書き方であることを示す

つまり、ジャーナリングは発信の代わりではなく、発信の手前にある、もっと私的な習慣です。発信するかどうかを考える必要すらありません。この気軽さこそが、ジャーナリングの入り口としての価値です。

なぜ「書く」だけで気持ちが軽くなるのか?

頭の中で渦を巻いている感情や出来事を、言葉という形に落とし込む過程そのものに、整理する働きがあると考えられているためです。

アメリカの心理学者ジェームズ・ペネベーカーは1980年代から、感情を伴う出来事について書くこと(expressive writing)の効果を研究してきました。基本的なやり方は、つらかった出来事について1回15〜20分、複数回にわたって書き続けるというシンプルなものです。この分野の研究では、書くことがストレスや気分の落ち込みの軽減、あるいは身体的な健康指標の変化と関連づけて報告されてきました(Pennebaker, 2018, "Expressive Writing in Psychological Science")。

なぜ書くだけでそうした変化が起こりうるのか。ひとつの説明は、出来事を言葉にする過程で、頭の中で断片的だった感情や記憶が「筋の通ったひとつの話」に整理されるというものです。研究の中では、書いた文章の中に「気づく」「考える」「なぜなら」といった、物事を筋道立てて捉えようとする言葉が増えた人ほど、心理的な変化が見られたという報告もあります。もやもやした感情のまま抱えているより、「何が起きて、自分はどう感じ、なぜそう感じたのか」を言葉にする過程そのものに、整理する働きがあるということです。

ここで大切な注意点があります。これは医療的な治療法ではなく、効果には個人差があり、誰にでも同じように効くと断定されているわけではありません。強いつらさが続く場合や、書くことでかえって気分が悪化する場合は、無理に続けず、職場の相談窓口や専門家に相談することを優先してください。ジャーナリングは、あくまでセルフケアの選択肢のひとつとして位置づけるのが安全な向き合い方です。

介護の現場で、なぜ「書く整理」が特に必要なのか?

「人手が足りない」という慢性的な負担に加え、感情に寄り添う仕事であるがゆえの負荷が積み重なりやすい構造があるためです。

公益財団法人介護労働安定センターの令和6年度介護労働実態調査結果の概要では、介護労働者が抱える労働条件・仕事の負担についての悩み・不安・不満として、「人手が足りない」が49.1%で最も高く、次いで「仕事内容のわりに賃金が低い」(35.3%)、「身体的負担が大きい」(24.6%)と続いています。同調査では、仕事の満足度について「職場の人間関係」「仕事の内容」はプラスの評価が多い一方、「人員配置体制」「休憩室などの付帯設備」「賃金水準」の満足度はマイナスが上回るという結果も示されています。人手不足感を抱えながら日々の業務にあたっている介護職員が少なくないことがうかがえます。

こうした構造的な負担に加えて、介護の仕事には「感情労働」という側面もあります。利用者さんやご家族の感情に寄り添いながら、自分自身の感情はいったん脇に置いて対応する場面が日常的に発生します。その「脇に置いた感情」は消えてなくなるわけではなく、行き場を失ったまま積み重なっていきます。ジャーナリングは、この行き場のない感情に、ひとつの出口を用意する試みだと言えます。

何を、どう書けばいいのか?

「事実」「感情」「そのとき考えたこと」の3つを、15〜20分、手を止めずに書くだけです。うまく書こうとしないことがコツです。

型はシンプルです。今日1日を振り返って、心に引っかかった場面をひとつ選び、次の3つを順に書き出してみてください。

  • 事実(何が起きたか)——いつ、どこで、誰との間で、何があったか。事実だけを、感情を交えずにまず書く
  • 感情(自分はどう感じたか)——そのとき浮かんだ感情を、そのまま言葉にする。「イライラした」「悲しかった」「情けなかった」——きれいな言葉に整える必要はない
  • そのとき考えたこと(何を考えたか)——「なぜそう感じたのか」「本当はどうしたかったのか」を、思いつくまま書く

書き終えたら、読み返さなくても構いません。誤字も、文章の乱れも、そのままでいい。発信のときの「500文字でいい」と同じく、ジャーナリングにも「体裁を整えなくていい」というルールがあります。 むしろ、きれいに整えようとする意識が働くと、感情の生々しさが薄まってしまいます。

書く場所も選びません。けありんぐのアプリの下書き機能(非公開のまま保存できます)、スマホのメモアプリ、手元のノート——どれでも構いません。大切なのは「絶対に誰にも見せない」と自分で決めた場所に書くことです。見られるかもしれないという意識が少しでもあると、本音を書く手が止まってしまいます。

どんな場面がジャーナリングに向いている? — 介護現場でよくある3つの場面

「感情が動いたのに、誰にも話せなかった場面」であれば、どんな内容でもジャーナリングの題材になります。特に次の3つの場面は、書く整理と相性がよい典型例です。

  • 利用者さんやご家族との関わりで、心が揺さぶられた場面——強い言葉を返されて傷ついた、感謝の言葉に思わず涙が出た、看取りに立ち会って言葉にならない感情を抱えた。こうした場面は、業務としては「対応した」で終わってしまいますが、感情はそこで終わっていないことが多いものです
  • 同僚・上司との人間関係で、モヤモヤが残った場面——先ほどの調査では「職場の人間関係」は仕事の満足度でプラス評価が多い項目である一方、中途採用の介護労働者が直前の介護関係の仕事を辞めた理由としては「職場の人間関係に問題があったため」が24.7%で最も高いという結果もあります。人間関係は満足の源にも、負担の源にもなりやすいテーマです。誰かに直接言えない不満や違和感は、まず自分の中だけで言葉にしてみると、次にどう動くかが見えてくることがあります
  • 自分の対応に迷いや後悔が残った場面——「もっとこうすればよかった」「あの判断は正しかったのか」という自問は、頭の中だけで繰り返すとループしがちです。書き出すことで、同じ迷いでも一歩前に進みやすくなります

これらはあくまで例であり、「これを書かなければいけない」というテーマではありません。その日いちばん心に残ったことを、そのまま選べば十分です。

夜勤明けの15分、実際にどう始めればいい?

「場面を1つ選ぶ→タイマーを15分かける→手を止めずに書く→そのまま閉じる」の4ステップです。

夜勤明けにジャーナリングを始める4ステップの図解。ステップ1心に引っかかった場面を1つ選ぶ、ステップ2タイマーを15分にセットする、ステップ3事実・感情・考えたことの順に手を止めず書く、ステップ4読み返さずそのまま閉じる、という流れを矢印でつなぎ、費用は0円と添えている

ステップ1: 心に引っかかった場面を1つだけ選ぶ(1分)

その日いちばん感情が動いた場面をひとつ選びます。「良かったこと」でも「しんどかったこと」でもかまいません。迷ったら、帰り道でふと思い出した場面を選んでください。それがいちばん、心に残っている証拠です。

ステップ2: タイマーを15分にセットする(0分)

時間を区切ることには理由があります。終わりが見えないと「書き続けなければ」という新たな負担になってしまうからです。15分経ったら、途中でも手を止めて構いません。

ステップ3: 手を止めずに書く(15分)

事実→感情→考えたこと、の順で書きます。言葉が詰まったら、同じ言葉を繰り返し書いてでも手を止めないことがコツです(「わからない、わからない、なんでこんなに疲れるんだろう」でも構いません)。手を止めると、頭の中で「うまく書かなきゃ」という検閲が働き始めます。

ステップ4: 読み返さずに、そのまま閉じる(1分)

書いた内容を読み返す必要はありません。書く行為そのものに意味があるので、読み返して「こんなこと書いて大丈夫かな」と不安になる必要もない。閉じて、その日は終わりです。

ここまでで15〜20分。夜勤明けのコーヒー1杯を飲む時間で、今日から始められます。

毎日書けなくても大丈夫? — 続けるうえでのつまずきと回避策

大丈夫です。ジャーナリングは「毎日の日課」ではなく「必要なときに使う道具」として捉えると、無理なく続きます。

つまずき1: 「毎日書かなきゃ」とプレッシャーになる

回避策は、「必要なときだけでいい」と最初に決めておくことです。感情が大きく動いた日だけ書く、週に1〜2回だけ書く、といった向き合い方でも十分に機能します。書けなかった日を「失敗」と数えないでください。

つまずき2: 何を書けばいいか分からず手が止まる

回避策は、「事実」から書き始めることです。感情や考えから書こうとすると、何を書けばいいか分からず固まりやすくなります。「何時に、どこで、誰との間で、何があったか」という事実の描写なら、誰でも手が動きます。事実を書いているうちに、自然と感情の言葉が出てきます。

つまずき3: 書いていて、かえってつらくなる

回避策は、その場で無理に続けないことです。書くことで一時的に感情が強く動くのは自然な反応ですが、つらさが増していくようなら、その日は途中でやめて構いません。繰り返しつらさが強い場合は、ジャーナリングを続けるより、職場の相談窓口や専門家に相談することを優先してください。ジャーナリングは自分を追い詰める道具ではなく、自分を助けるための道具です。

書いたものを、いつか「発信」に育ててもいい

ジャーナリングで書いたことをそのまま公開する必要はありませんが、時間が経って気持ちが落ち着いたとき、その中に「誰かの役に立つ経験」が眠っていることがあります。

たとえば、「利用者さんに強い言葉を返してしまって落ち込んだ」というジャーナリングの1行は、数日〜数週間経って読み返すと、「あのとき、こう対応していれば」という具体的な学びに変わっていることがあります。そこまで整理できたら、個人が特定されない形に加工したうえで、「もう無理」「あの上司は」と書く前にで紹介した境界線を守りながら、発信として仲間に届けることもできます。

ただし、これはあくまで「いつかできたらいい」という選択肢であり、義務ではありません。ジャーナリングで書いたものの9割は、誰にも見せないまま役目を終えて構いません。書くこと自体に、すでに意味があるからです。

まとめ — 書くことは、いちばん身近なセルフケア

介護の仕事は、感情が動く場面の連続です。その感情を誰かに話す時間がいつもあるとは限りません。ここまで読んで、「今日の帰り道、何を書けばいいか」「どのくらいの時間で、何を書けば整理になるか」を、自分の言葉で説明できる状態になっているはずです。次のことを持ち帰ってもらえたら十分です。

  • ジャーナリング(書く整理)は、感情や出来事を、誰にも見せない前提で書き出す習慣。発信とは別物で、体裁を一切気にしなくていい
  • 感情を言葉にする過程には、ストレスや気分の落ち込みの軽減と関連づけて研究されてきた歴史がある。ただし個人差があり、万能ではない
  • やり方は「事実→感情→考えたこと」の順に、15〜20分、手を止めずに書くだけ。読み返さなくていい
  • 毎日でなくていい。「必要なときに使う道具」として、感情が大きく動いた日だけ書けば十分
  • 強いつらさが続く場合は、書くことより先に、職場の相談窓口や専門家への相談を優先する

今夜、帰り道で何か引っかかることがあったら、スマホのメモを開いて、事実をひとつだけ書いてみてください。それだけで、頭の中の渦が少し形を持ち始めるはずです。

そして、もし書いたものの中に「これはいつか誰かの役に立つかもしれない」と思える経験が見つかったら、介護福祉けありんぐは、その経験を同じ現場で働く仲間に届ける場として、いつでもあなたを待っています。まずは自分のために、書くことから始めてみてください。

よくある質問

A. いちばんの違いは「誰かに見せるかどうか」です。発信は同じ現場で働く仲間に届けるために整えた言葉ですが、ジャーナリングは自分だけに向けた、整えていない生の感情や思考です。個人特定や誹謗中傷への配慮も、自分用のメモであるジャーナリングでは基本的に必要ありません。しんどい・モヤモヤしたときはまずジャーナリングから始め、気持ちが落ち着いたら発信に育てるかどうかを考える、という順番がおすすめです。

A. 感情を伴う出来事について書くこと(expressive writing)は、1980年代から心理学で研究が積み重ねられ、ストレスや気分の落ち込みの軽減と関連づけて報告されてきました。頭の中で断片的だった感情や記憶を、言葉という筋の通った形に整理する過程に、その働きがあると考えられています。ただし効果には個人差があり、医療的な治療法ではありません。強いつらさが続く場合は、書くことより先に職場の相談窓口や専門家への相談を優先してください。

A. 「事実」「感情」「そのとき考えたこと」の3つを順に書きます。まず何が起きたかを感情を交えず事実だけ書き、次にそのとき浮かんだ感情をそのまま言葉にし、最後になぜそう感じたのか・本当はどうしたかったのかを思いつくまま書きます。500文字にまとめる必要も、きれいな文章に整える必要もありません。誤字や文章の乱れがあっても、読み返さずそのまま閉じて構いません。

A. 十分に意味があります。ジャーナリングは「毎日の日課」ではなく「必要なときに使う道具」として捉えると無理なく続きます。感情が大きく動いた日だけ書く、週に1〜2回だけ書く、といった向き合い方でも機能します。書けなかった日を失敗として数える必要はありません。何を書けばいいか分からず手が止まるときは、感情や考えではなく「事実」から書き始めると手が動きやすくなります。

A. その場で無理に続けないでください。書くことで一時的に感情が強く動くのは自然な反応ですが、つらさが増していくようなら、その日は途中でやめて構いません。繰り返しつらさが強い場合は、ジャーナリングを続けるより、職場の相談窓口や専門家に相談することを優先してください。ジャーナリングは自分を追い詰める道具ではなく、自分を助けるための道具です。

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