就業規則はSNS発信をどこまで縛る? — 介護職が書き始める前に確認したい守秘義務の範囲
執筆: けありんぐ編集部(介護福祉けありんぐ 編集部)
就業規則はSNS発信をどこまで縛る? — 介護職が書き始める前に確認したい守秘義務の範囲
要点
- 施設のSNSポリシー・就業規則は施設ごとに内容が異なる私法上のルール。一方、介護福祉士・社会福祉士には社会福祉士及び介護福祉士法第46条(秘密保持義務) という、全国どの施設で働いていても共通して課される公法上の義務がある。両者は別レイヤーで、退職後の扱いも異なる。
- 個人の私的SNSアカウントの投稿すべてを施設が「許可制」にする規定は、私生活への過度な介入として無効となる可能性が高いという指摘がある。ただし「業務上知り得た秘密を書かない」という制限は、就業規則の有無にかかわらず法律上独立して課され続ける。
- 実際に、訪問介護のホームヘルパーが利用者宅での様子をブログに書き続け、提訴に至った事例が報道されている。
- 就業規則を読んでも「これは書いていいのか」が分からないときは、「施設のルール」と「資格法上の義務」を分けて考えると、判断の軸がはっきりする。
- 法律・実務の記述は一次情報(社会福祉士及び介護福祉士法、法律事務所・社会保険労務士の実務解説)に基づき、断定的な法解釈は避けて整理する。
「うちの就業規則、SNSのことなんて書いてあったっけ」 「入社のとき何か誓約書にサインした気がするけど、内容を覚えていない」 「そもそも、施設の就業規則と、資格を持っている自分自身の法律上の義務って、同じものなの?」
——介護福祉けありんぐで発信を始めようとしたとき、こうした疑問が浮かんだ方もいるはずです。あなたの発信、特定されていませんか?では特定防止の5つの自衛ルールを、「もう無理」「あの上司は」と書く前にでは誹謗中傷にならない書き方の境界線を扱いました。本記事で扱うのは、その手前にある「そもそも施設のルールはどこまで発信を縛るのか」という土台の部分です。ここを整理せずに発信を始めると、「就業規則違反だと言われたらどうしよう」という漠然とした不安がずっと残り続けてしまいます。実はこの不安、「施設のルール」と「資格法上の義務」という2つのレイヤーを分けて考えるだけで、かなり見通しがよくなります。この記事の後半では、この2つがどう違い、どこで重なるのかを具体的に示します。
施設の就業規則・SNSポリシーには、何が書かれているのが一般的?
業務上知り得た秘密・個人情報の投稿禁止、施設内の様子の無断撮影・投稿禁止、誹謗中傷や差別的発言の禁止、違反時の懲戒処分の段階、といった項目が一般的に盛り込まれます。
まず押さえておきたいのは、就業規則やSNSポリシーは、施設・法人が独自に設計する社内規程だという点です。労務・法律の実務解説によれば、企業のソーシャルメディアポリシーには次のような要素が典型的に盛り込まれるとされています。
- 対象者の範囲 — 正社員だけでなく、契約社員・パート・アルバイトも含む全職員を対象にする規定が多い
- 禁止事項 — 業務上知り得た秘密・個人情報の投稿禁止、施設内の様子の無断撮影・投稿禁止、誹謗中傷・名誉毀損・差別的発言の禁止など
- 推奨事項 — 個人アカウントでの発信であっても「会社・施設の公式見解ではなく個人の意見である」ことを明示するよう求める規定
- 違反時の処分 — 戒告・けん責から、減給、出勤停止、懲戒解雇まで、悪質性や損害の程度に応じた段階制が一般的
- 相談窓口 — 迷ったときに誰に確認すればよいかの明記
重要なのは、この内容は法律で全国一律に定められたものではなく、施設・法人ごとに設計が異なるという点です。同じ「介護施設」でも、SNSポリシーが独立した規程として整備されているところもあれば、就業規則の服務規律の中に一文だけ「秘密保持」と書かれているだけのところもあります。入社時や配置転換時にSNS利用に関する誓約書へのサインを求める運用例もあるとされ、心当たりのある方は、まず自分の施設がどちらのタイプかを確認しておくと、この先の話が具体的になります。
規程の設計方法として、労務の実務解説では 服務規律に禁止行為を列挙し、懲戒事由に違反時の処分根拠を対応させる という2段構えの作り方が紹介されています。プラットフォーム名を個別に列挙する書き方(「Twitter・Instagram・TikTokへの投稿を禁止する」等)は、新しいSNSが登場するたびに規程の更新が追いつかなくなるため、「SNS、ブログ、その他インターネット上の情報発信サービス」のように包括的な定義にしておく方が実務上は扱いやすいという指摘もあります。自分の施設の規程がどちらの書き方をしているかによっても、「この新しいアプリは対象に入るのか」という解釈の余地が変わってくるため、規程の文言そのものを一度確認しておく価値があります。
就業規則とは別に、法律上の義務があるのはなぜ?
介護福祉士・社会福祉士には、社会福祉士及び介護福祉士法という国の法律に基づく義務があり、これは就業規則の有無にかかわらず、資格を持つ限り課され続けるためです。
あなたの発信、特定されていませんか?でも紹介したとおり、同法第46条は「社会福祉士又は介護福祉士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士又は介護福祉士でなくなつた後においても、同様とする。」と定めています。施設の就業規則にSNSの規定が一切書かれていなかったとしても、この秘密保持義務はそのまま適用されます。
あわせて押さえておきたいのが、同法第45条の信用失墜行為の禁止です。条文は「社会福祉士又は介護福祉士は、社会福祉士又は介護福祉士の信用を傷つけるような行為をしてはならない。」というシンプルなものですが、特定の業務エピソードを不用意に発信して資格者全体の信用に関わる事態になれば、この条項に触れうるという理解が成り立ちます。
そして第50条は、第46条(秘密保持義務)に違反した場合の罰則として「一年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」を定めています。この罪は親告罪で、告訴がなければ公訴は提起されません。
この2つの義務がなぜ重要かというと、「就業規則」と「資格法」は根拠となる法体系そのものが違うからです。 就業規則の秘密保持条項は労働契約に基づく私法上の義務で、退職後まで及ぶかどうかは誓約書や規程の定め方次第です。一方、資格法上の秘密保持義務は資格の登録に紐づく公法上の義務で、施設を辞めても、介護福祉士でなくなった後でも続きます。「就業規則の縛りは退職したらなくなる」というイメージだけで発信の可否を判断すると、この資格法のレイヤーを見落としてしまう可能性があります。
就業規則で「SNS投稿は許可制」と定められていたら、その通りに守るしかない?
投稿内容の禁止事項として定められているものは守る必要がありますが、私的な個人アカウントの投稿すべてを一律に届出・許可制にする規定は、私生活への過度な介入として無効となる可能性が高いという指摘があります。
ここは発信する側として気になるポイントのはずです。実務解説を確認すると、業務用・施設公式アカウントでの発信に事前承認を求める規定は一般的とされる一方、個人の私的SNSアカウントそのものを全面的に禁止したり、投稿ごとに届出を義務づけたりする規定については、慎重な見方が示されています。具体的には、そうした規定は労働者の私生活への過度な介入にあたり、規定として無効と判断される可能性が高いという指摘が複数の実務解説に見られます。
一方で、これは「個人アカウントなら何を書いてもよい」という意味ではありません。実務上の落としどころとして紹介されているのは、「アカウントの届出・許可制」ではなく「投稿してはいけない内容(業務上の秘密、利用者情報、施設内の様子等)を具体的に列挙し、懲戒事由として明記する」というアプローチです。つまり、「どこで発信するか」を縛るのではなく「何を書かないか」を縛るという方向に実務は寄っている、と理解しておくとよさそうです。
SNS投稿を理由とする懲戒処分は、業務時間外・私的アカウントでの投稿であっても、内容・拡散範囲・故意過失を総合的に考慮して判断されるという解説もあります。「業務時間外に、個人のプライベートなアカウントで書いたから関係ない」という認識だけに頼るのは、リスクを見誤る可能性があります。
実際に、SNS投稿がトラブルに発展した事例はある?
訪問介護のホームヘルパーが、利用者宅での様子を個人ブログに投稿し続けたことが提訴に至った事例が報道されています。
2015年の日本経済新聞の報道によれば、著名な文化人宅を訪問していたホームヘルパーが、訪問開始からおよそ10日後に個人ブログで、利用者の認知症の進行状況や日常動作が一人でできないことなどを投稿しました。派遣元から注意・謝罪を求められた後もブログの更新を続けたことから、利用者本人とその家族が、ホームヘルパー本人と派遣会社(訪問介護事業者)に対して損害賠償を求めて提訴したと報じられています。
この訴訟の経緯を紹介した法律事務所の解説記事によれば、東京地方裁判所がホームヘルパー個人および訪問介護会社の双方に賠償を命じたとされ、「企業には利用者のプライバシー・名誉を侵害しないよう十分に指導監督する義務がある」という趣旨が示されたと解説されています。ただし、この判決の詳細(日付・金額)は法律事務所による紹介記事を経由した情報であり、判決文そのものを直接確認したものではない点には注意が必要です。「投稿した本人だけでなく、雇用する事業者側にも責任が及びうる」という構造があるという点を、事例として押さえておく価値はあります。
似た文脈では、看護師が患者情報を漏洩したことでけん責・降格・減給といった懲戒処分を受けた例が紹介されている実務解説もあります。いずれも詳細な個別事情までは公開されていませんが、「業務上知り得た情報の発信」が処分に発展する経路は、介護・医療の現場で実際に起きうるという前提で、発信の前に一呼吸置く材料にはなります。
なお、介護職員に特化した厚生労働省・介護労働安定センターのSNS利用ガイドラインは、今回の調査範囲では見当たりませんでした。介護業界に特化した公的な指針が整備されているというより、各施設の就業規則・SNSポリシーの整備と、資格法上の秘密保持義務・個人情報保護法といった一般ルールの組み合わせで対応しているのが実情だと考えられます。
悪意がなくても引っかかりやすいのは、どんな投稿?
「注意喚起のつもり」「エピソードとして興味深いから」という善意の動機から、結果的に業務上の秘密や利用者情報を書いてしまうパターンが、実務解説でも繰り返し指摘されています。
看護師が患者の後ろ姿を撮影して個人SNSに投稿した事例では、投稿者本人は「友人限定公開のつもり」だったとされますが、一時的に第三者も閲覧可能な状態になっており、第三者からの通報で発覚したと紹介されています。投稿者と同僚看護師が厳重注意処分を受けたとされるこの事例に共通するのは、「限定公開だから大丈夫」という設定への過信です。SNSプラットフォームの公開範囲設定は、アプリの仕様変更や操作ミスによって意図せず広がってしまうことがあり、「設定したから安全」と考えるより、「そもそも投稿しない」という判断の方が確実だといえます。
もう一つのパターンが、「業務改善の提案として書いたつもりが、結果的に施設の内部事情の暴露になっていた」 というケースです。「うちの施設、人手不足でこんなに大変」という投稿は、書いた本人にとっては現場の実態を伝える発信のつもりでも、読み手や施設側からは「施設の対外的信用を貶める行為」として受け止められる可能性があります。「もう無理」「あの上司は」と書く前にで扱った誹謗中傷のリスクと、今回の守秘義務・信用失墜行為のリスクは、同じ投稿の中に同時に存在しうるという点を、あらためて押さえておきたいところです。
就業規則を読んでも判断に迷うとき、どう考えればいい?
「施設が縛れる範囲」と「法律で決まっている範囲」を分けて考え、迷った内容は投稿前に施設の窓口に確認する、という2段構えが実用的です。
ここまでの内容を、発信を始める前のチェックとして整理すると、次のようになります。
- 自分の施設の就業規則・SNSポリシーに、投稿してはいけない内容の記載があるか確認する — 「秘密保持」の一文だけなのか、SNS専用の規定があるのかで、確認すべき粒度が変わります
- 就業規則の内容にかかわらず、業務上知り得た利用者の秘密・個人情報は書かない — これは資格法第46条の話であり、就業規則が薄くても免除されません
- 「個人アカウントだから」「業務時間外だから」を、免罪符にしない — 内容・拡散範囲によっては、私的な投稿でも問題になりうるという理解を持っておく
- 迷ったら、施設の相談窓口や上司に一度確認する — 「これは書いてもいいか」を毎回自分ひとりで判断しない習慣が、結果的に発信を長く続けられる土台になります
こうして整理すると、就業規則は「発信を止めるための壁」ではなく、「ここまでは施設のルールとして明記されている、ここから先は資格を持つ自分自身の法律上の義務」という地図だと捉え直せます。地図が手元にあれば、「なんとなく怖いから書かない」ではなく、「ここは書ける、ここは確認してから」という具体的な判断に変わっていきます。
まとめ — この記事で持ち帰れること
この記事から持ち帰れることは、次の3つです。
- 施設の就業規則・SNSポリシーは施設ごとに異なる私法上のルールで、資格法(社会福祉士及び介護福祉士法)上の秘密保持義務は全国共通で課される公法上の義務だという、2つのレイヤーの違いが分かった
- 個人アカウントの投稿すべてを許可制にする規定には無効の可能性が指摘される一方、「業務上の秘密を書かない」という制限は就業規則の有無にかかわらず及び続けることが分かった
- SNS投稿がトラブルに発展した実例があり、投稿した本人だけでなく事業者側にも責任が及びうる構造があることが分かった
今日ひとりでできることをひとつ。まずは自分の施設の就業規則やSNSポリシー、あるいは入社時に交わした誓約書を、実際に一度読み返してみてください。SNSに関する記載があるかどうか、あるとすればどこまで具体的に書かれているかを確認するだけで、「なんとなく怖い」という漠然とした不安が、「ここは確認済み、ここは相談してみよう」という具体的な行動に変わります。
施設のルールと資格法上の義務、この2つを分けて理解しておくことは、発信を続けるための足場になります。特定を避ける具体的な工夫はあなたの発信、特定されていませんか?に、誹謗中傷にならない書き方の境界線は「もう無理」「あの上司は」と書く前ににまとめています。あわせて確認しておくと、書き手として自分を守る土台がより固まります。
介護福祉けありんぐは、介護・福祉に携わるプロが、所属や経歴を背負わずに現場の知恵を発信し、学び合えるプラットフォームです。ルールを正しく理解することは、萎縮するためではなく、安心して長く発信を続けるためにあります。
よくある質問
A. 規定の内容次第です。業務に関する具体的な投稿内容を禁止する規定は基本的に有効と考えられますが、私的な個人アカウントの利用そのものを一律に禁止・許可制にする規定は、私生活への過度な介入として無効となる可能性が高いという指摘があります。ただし、業務上知り得た秘密や利用者情報を書かないという制限は、就業規則の内容にかかわらず資格法上独立して課され続けます。
A. 就業規則に規定がなくても、自由に何でも書けるわけではありません。介護福祉士・社会福祉士には、社会福祉士及び介護福祉士法第46条による秘密保持義務があり、これは施設の規程の有無にかかわらず適用されます。就業規則の記載が薄い施設ほど、この資格法上の義務を自分で意識しておく必要性が高いともいえます。
A. なりません。社会福祉士及び介護福祉士法第46条は「社会福祉士又は介護福祉士でなくなつた後においても、同様とする」と定めており、秘密保持義務は資格を離れた後も続きます。就業規則の秘密保持条項が退職後まで及ぶかは施設ごとの定め方次第ですが、資格法上の義務は退職や資格喪失後も別立てで存在し続けます。
A. そうとは限りません。SNS投稿による懲戒処分は、業務時間外・私的アカウントでの投稿であっても、内容・拡散範囲・故意過失を総合的に考慮して判断されるという解説があります。「業務時間外だから」「個人アカウントだから」という理由だけで、業務上知り得た秘密や利用者情報を書いてよいことにはなりません。
A. まずは施設内の相談窓口や上司に確認するのが基本です。就業規則に相談窓口の記載がある場合はそちらを、記載がない場合は人事担当や施設長に確認するとよいでしょう。発信前に「これは書いてもよいか」を毎回自分ひとりで判断せず、迷った内容は事前に確認する習慣が、結果的に安心して発信を続ける土台になります。



