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セルフケア2026年9月2日約5分で読める

母の部屋の前で、わたしが息を止めていたことに気づいた夜

あさひ
あさひ
@kaigo_health
母の部屋の前で、わたしが息を止めていたことに気づいた夜
目次

夜中、母の部屋のドアを五センチだけ開けて、寝息を確かめる時間があります。認知症の進行はゆるやかでも、夕方から見当識がぶれる日があるので、寝る前にもう一度だけ様子を見にいくのが、三年前にこの家に越してきてからのわたしの習慣になりました。だいたい二十三時過ぎ、家じゅうが静かになった頃です。

先週のその瞬間、ドアの隙間から寝息を聞き取ろうと耳を澄ませながら、自分がまったく息をしていないことに気づきました。吸うでも吐くでもなく、ただ止めていたんです。喉の奥がきゅっと締まって、肩が耳のほうに寄っていました。

この話は、介護職員として現場に立つ方にも、家族介護をしながら仕事も続けている方にも、両方に向けて書いています。相手の様子をうかがう瞬間、わたしたちは驚くほど呼吸を止めているんですよね。夜勤明けの体だけでなく、見守っている最中の体にも、疲れは静かに積もっていきます。

見守る瞬間、息を止めているのはわたしだけじゃなかった

見守る、集中する、身構える。この三つが重なると、人は呼吸を後回しにするようにできているようです。母の寝顔を確認するときのわたしがまさにそれで、無意識に肩へ力が入り、喉のあたりで息が止まっていました。

これは家庭だけの癖ではありません。職場でも、利用者さんの体位を変えるとき、車椅子への移乗で体を支えるとき、わたしは同じように息を止めています。力を入れる瞬間、呼吸を止めたほうが体幹が安定する感覚があるからです。理学療法士としてそのメカニズムはわかっているつもりでも、自分の体になると気づけません。

でも、その「止める」が数秒で終わらず、次の動作までずっと続いてしまうことがあります。夜勤明けに肩が下がらない日は、たいてい前の晩、誰かを支えるたびに息を止め続けていた日でもあります。首の付け根から肩甲骨のあたりまで、板が入ったみたいに動かなくなるんです。

この数ヶ月、寝つきが悪い日が増えていたのも、振り返れば同じ原因だった気がしています。体は疲れているのに、呼吸だけがずっと浅いまま、頭の芯が冴えている感覚。眠る前になってようやく、日中止め続けていた息がどっと出てくるような夜もありました。

夕方、記録用紙に向かっているときに、頭の後ろがずしりと重くなっていることがあります。肩こりだと思っていたその重さは、実は数時間ぶんの浅い呼吸が積み重なったものだったのかもしれません。一人でカルテを書いているとき、ふと肩が耳に近づいていることに気づいて、自分が数分前からずっと呼吸を浅くしていたと知ることもあります。止めていたことに、まず気づく。それだけで、体は少し違う反応をしてくれます。何かを変える前に、まず気づく段階があるんですよね。

夜勤中、移乗介助の直後に息を止めている理学療法士の横顔

移乗のたびに止めていた息を、動作の中に戻す

移乗介助のとき、最近わたしが変えたのは「支える瞬間に、短く吐く」ことです。力を入れる直前に大きく吸い込むのではなく、支え始めた瞬間に「ふっ」と短く吐きながら体重を受け止める。吐きながらのほうが、お腹の奥に力が入りやすい感覚があるんですよね。

具体的には、利用者さんの体を支える手前で一度小さく吸い、支える瞬間に二秒かけて吐きます。動作が終わったら、そこでもう一度、四秒かけてゆっくり吸い直す。「吐く、動く、吸い直す」の順番を、移乗のたびに繰り返しています。数えるというより、口の中で小さく「はっ」と音を立てる感じに近いです。

最初は数えるのも忘れて、結局また止めてしまう日もありました。二週間くらいは、意識した瞬間にはもう動作が終わっていて、間に合わないことばかりでした。それでも、記録用紙に向かう前の数秒だけでも思い出せた日は、肩の付け根の重さが違います。

先月入った後輩に、この順番をそのまま伝えてみたことがあります。「支える前に吸って、支えながら吐く」。たったそれだけの言葉なのに、後輩は次の移乗でふっと肩の力が抜けたのが、見ていてわかりました。教えるというより、一緒に思い出す感じに近かったです。

全部の移乗でできなくてもいいんです。一回でも思い出せたら、それでいい。そのくらいの緩さで続けています。同僚が休憩室で肩を回しているのを見かけたときも、「今、息止めてました?」と声をかけるようになりました。聞かれた側は最初きょとんとして、それから「言われてみれば」と笑います。

記録用紙の前で短く息を吐き直す理学療法士とゆる湯気さん

家に帰ってからも、同じ癖が母の見守りに出る

家に帰ってからも、この癖はついてきます。母の部屋の前に立つとき、わたしは「異変がないか」に意識を向けすぎて、また呼吸が止まる。中2の娘に「お母さん、また止まってるよ」と笑われるくらい、顔に出ているようです。

去年の冬から続けているのは、母の部屋の前に行く前に、キッチンで一度だけ温かい飲み物を口に含む習慣です。真空断熱マグ(サーモスのものを使っています)にほうじ茶を入れておき、廊下を歩きながらひとくち飲む。保温力が高くて、夜勤から帰った夕方に淹れても、寝る前まで温かさが残っているのが続けやすい理由です。片手で持てる軽さも、廊下を歩きながら飲むにはちょうどいいんですよね。熱すぎない温度をひとくち含むだけで、自然と息を吐く動作が入るんです。

これはあくまでわたしの体感です。母の部屋のドアの前で、飲みかけのお茶をひとくち。それだけの習慣ですが、マグを口に運ぶ数秒が「一度止まって、吐く」きっかけになっている実感はあります。

娘は「またお母さんのお茶タイム」と呼んでいて、からかわれながらも、その数秒がわたしにとっては小さな呼吸の戻し場所になっています。母は母で、わたしが廊下でお茶を飲んでいると「あら、休憩?」と声をかけてくれることがあって、その一言にも肩の力が抜けます。元教員だった母は、昔からこちらが力んでいるとすぐ気づく人でした。夫は縁側で母と将棋を指す時間があるので、わたしのお茶タイムは、家の中でわたしだけの間だと思っています。

廊下で保温マグを手に一息つく理学療法士

呼吸を止めていい場面と、戻していい場面を分ける

呼吸を止めること自体は、悪いことではないと思っています。力を入れる一瞬、体を守るために止まるのは自然な反応です。問題は、止めたままでいることに気づけないまま、次の動作、その次の動作へと進んでしまうことなんですよね。

理学療法士として利用者さんの体の緊張を見立てるとき、わたしはまず呼吸を見ます。肩が上がっているか、胸だけで浅く吸っていないか。同じ目を自分にも向けていいはずなのに、休む許可を自分に出すのに、これまで何年もかかりました。

燃え尽きる手前のサインは、気持ちより先に呼吸に出るのかもしれません。落ち込んでいるわけでも、辞めたいわけでもないのに、ただ息が浅くなっている日。そういう日ほど、自分では気づきにくいものです。

移乗を何度こなしても、母の部屋の前に何度立っても、呼吸を止めていること自体はきっとなくならないと思います。それでも、止めたことに気づいて、一度だけ吐き直す。その一往復ができる回数を、少しずつ増やしていきたいんです。特別な体操も器具もいらない、いちばん小さなセルフケアだと思っています。

母の部屋の前で。支える手の中で。記録用紙の前で。今日、あなたが息を止めていた瞬間は、どこにありましたか?

※ 商品リンクは note のアフィリエイトを含みます。わたしの一人称感想であり、医療効果を保証するものではありません。

休みイスに座り深く息を吐く理学療法士

#夜勤明け#家族介護#セルフケア
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介護現場で12年の理学療法士です。夜勤明けの介護職員さんと家族介護中の方の隣で、続けるための体の整え方を配信します。 責めない温度感で記載します。

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