「利用者様に寄り添う介護を学びたいです」で終わっていませんか? — 実習の目標が立てられないときの考え方
結論、実習の目標が一文で止まってしまうのは意欲が足りないからではなく、「学びたいこと」を「誰に・いつ・何を・どのくらい」まで変換する手順を踏んでいないためです。SMART原則の考え方を実習1日単位に翻訳して使う具体化の型と、目標と実習日誌の考察がつながっているという関係を整理しました。
執筆: けありんぐ編集部(介護福祉けありんぐ 編集部)

「利用者様に寄り添う介護を学びたいです」で終わっていませんか? — 実習の目標が立てられないときの考え方
要点
- 実習の目標が「寄り添う介護を学びたい」のような一文で止まってしまうのは、意欲が足りないからではなく、目標を「見学したいこと」の言い換えで止めてしまっているためです。
- 目標を具体化する型は、「誰に」「いつ」「何を」「どのくらい」まで書くの4点です。SMART原則という目標設定の考え方が示す「具体性・測定可能性・達成可能性・関連性・期限」の視点を、実習1日単位に翻訳して使います。
- 実習日誌の「考察」が書けないあなたへで扱った「考察」は実習後に振り返って書くものですが、本記事の「目標」は実習前に立てるものです。目標が具体的であるほど、考察も書きやすくなるという順番の関係にあります。
- 得意なことを伸ばす目標と、苦手なことを克服する目標の両方があってよく、どちらか一方に決めつける必要はありません。
「実習の目標を書いてください」と言われて、「利用者様に寄り添った介護を学びたいです」「コミュニケーション能力を身につけたいです」と書いてしまい、実習指導者から「もう少し具体的に」と言われた経験はないでしょうか。決して手を抜いているわけではなく、むしろ真剣に考えた結果、こういう言葉に落ち着いてしまう実習生は少なくありません。この記事では、目標が抽象的になってしまう理由と、今日から使える具体化の型を整理します。
なぜ実習の目標は抽象的になりやすいのか?
「学びたいこと」をそのまま目標として書いてしまい、「何を」「どのくらい」に変換する手順を踏んでいないためです。
「寄り添う介護を学びたい」という言葉自体は、間違ってはいません。実習を通してそういう姿勢を身につけたいという気持ちは本物のはずです。問題は、この言葉が実習期間が終わった後にしか答え合わせができないことにあります。「学べたかどうか」は主観でしか判断できず、指導者から見ても「今日、この学生は目標に向けて何をしたのか」が分かりません。
同じように、「コミュニケーション能力を身につけたい」も、実習前に立てる目標としては輪郭がぼやけています。コミュニケーション能力とは何を指すのか、実習のどの場面で、どう確認するのかが決まっていないためです。目標が抽象的になる原因は、気持ちが足りないのではなく、「学びたいこと(方向性)」を「今日やること(行動)」まで変換していないという、手順の問題です。
抽象的な目標を、具体的な目標に変換するにはどうすればいいのか?
「誰に」「いつ」「何を」「どのくらい」まで書き加えます。目標設定の考え方として知られるSMART原則(具体性・測定可能性・達成可能性・関連性・期限)を、実習1日単位に当てはめる方法が使えます。
SMART原則は、目標を立てる際の5つの視点(Specific=具体的か、Measurable=測定できるか、Achievable=達成可能か、Relevant=関連性があるか、Time-bound=期限があるか)を示す考え方で、ビジネスの目標設定でも広く使われています。実習の目標は数週間〜数ヶ月という区切りがすでに決まっているため、実習生が特に意識すべきは、「具体的か」と「測定できるか」の2点です。
「寄り添う介護を学びたい」を、この2点で書き直してみます。
- 誰に: 特定の利用者一人を思い浮かべる(「利用者全般」ではなく「今日担当する〇〇さん」)
- いつ: 実習のどの時間・どの場面か(「食事介助の時間」「レクリエーションの導入」など)
- 何を: 具体的な行動(「声をかけてから3秒待つ」「表情の変化をメモする」など)
- どのくらい: 回数や頻度(「1日3回」「介助のたびに」など)
この4点を埋めると、「利用者様に寄り添った介護を学びたい」は、たとえば「食事介助の際、本人の飲み込みのペースに合わせて、声かけの間隔を1呼吸置くことを意識する」のような、実習後に「できたか・できなかったか」を自分で判断できる目標に変わります。
得意なことを伸ばす目標と、苦手なことを克服する目標、どちらを選べばいいのか?
どちらでも構いません。苦手の克服だけに偏らず、得意なことをさらに伸ばす目標も選択肢に入れてください。
目標設定というと、「自分の弱点は何か」を考え、その克服を目標にしてしまいがちです。もちろんそれも一つの選び方ですが、必ずしも弱点克服だけが正解ではありません。「人の話を聞くのは得意だから、聞き取った内容を記録にどう活かせているかを意識してみる」のように、すでに得意なことを、さらに一歩深める目標も、立派な実習の目標です。
弱点克服型の目標は「できないことをできるようにする」達成感がある一方、プレッシャーを感じやすいという面もあります。得意を伸ばす型の目標は、無理なく続けやすく、結果として実習全体への意欲を保ちやすいという利点があります。自分がどちらのタイプで実習に臨みたいかを、まず自分自身に問いかけてみるところから始めても構いません。
立てた目標は、実習指導者に伝えたほうがいいのか?
伝えたほうがよい場合がほとんどです。目標を先に共有しておくと、指導者がその目標に関連する場面を意識的に見せてくれることがあります。
目標は、自分の日誌に書いて終わりにするだけでなく、実習初日のオリエンテーションや、可能であれば実習前の打ち合わせで指導者に伝えておくことをおすすめします。「食事介助の際、声かけのタイミングを意識したい」という目標を事前に共有しておけば、指導者側も「今日は食事介助の場面で、意識して見ておくといいよ」のように声をかけやすくなります。目標を心の中だけに留めておくよりも、共有したほうが、実習期間全体を通じて学びの機会が増えやすくなります。
もちろん、施設や指導者によって、目標共有のタイミングや形式は異なります。書面で提出を求められる場合もあれば、口頭で構わない場合もあります。迷ったときは、実習初日に「今回の実習では、〇〇を意識して取り組みたいと考えています」と一言添えるだけでも十分です。
実習全体の目標と、1日ごとの目標は、分けて考えたほうがいいのか?
分けたほうが書きやすくなります。実習全体の目標は方向性を示す大きな旗として立て、1日ごとの目標はその旗に向かうための、その日限りの具体的な行動として立てます。
多くの養成校では、実習の初日か、それより前に「実習全体の目標」を提出させます。この全体目標は、「利用者様に寄り添った介護を学びたい」のような方向性を示す言葉のままで構いません。数週間から数ヶ月にわたる実習全体を指す言葉ですから、最初から細部まで具体化しきる必要はなく、むしろ大きな旗として掲げておくほうが実習の軸がぶれにくくなります。
問題が起きやすいのは、この全体目標の言葉を、そのまま1日ごとの目標や考察にも使い回してしまう場合です。「今日も利用者様に寄り添った介護を学べた」という日誌が毎日続くと、指導者から見ても、実習生自身から見ても、その日ならではの学びが見えにくくなります。全体目標は方向性を示す旗として据え置いたまま、1日ごとの目標では、本記事で紹介した「誰に・いつ・何を・どのくらい」の4点を使って、その日限りの具体的な行動に分解する——この2段構えで捉えると、全体目標がぶれることなく、日々の目標にも具体性を持たせられます。
実習期間の途中で目標を見直してもいいのか?
見直して構いません。実習が進むにつれて現場の解像度が上がり、最初に立てた目標がすでに簡単すぎた、あるいは逆に難しすぎたと分かることはよくあります。
目標は、実習初日に立てたら最後まで固定しなければならないものではありません。実習1週目は「利用者の名前と顔を覚え、声をかける」という基礎的な目標からスタートし、慣れてきた2週目以降は「声かけのタイミングを、本人の状態に合わせて変える」というように、段階を踏んで目標の難易度を上げていくやり方もあります。
目標を見直すタイミングの目安は、「今の目標を、もう達成できたと感じるか」を自分に問いかけることです。達成できたと感じたら、そこで満足せず、次の目標を新しく立て直す。この繰り返しが、実習期間を通じた成長の実感につながります。ここで、実習日誌の「考察」が書けないあなたへで紹介した「事実→気づき→理由づけ→次への行動」の4段階が役に立ちます。日々の考察で「次への行動」として書いたことが、そのまま翌日以降の目標の見直し材料になるからです。目標を立てる→実習する→考察で振り返る→目標を見直す、というサイクルで捉えると、目標と考察は切り離されたものではなく、同じ実習日誌の中でつながった作業だと分かります。
目標が立てられないまま、実習初日を迎えてしまったらどうすればいいのか?
「今日はとにかく、担当する場面を一つ決めて、そこだけ集中して観察する」という、行動レベルの目標に切り替えてください。
準備の時間が十分に取れないまま実習初日を迎えてしまうこともあります。そんなときに無理に立派な目標をひねり出そうとすると、かえって時間だけが過ぎてしまいます。そういう日は、「今日は移乗介助の場面だけ、職員の声かけのタイミングに注目する」のように、観察する対象を一つに絞るだけの目標に切り替えても構いません。目標の中身が壮大である必要はなく、「今日、自分が何に注目するか」さえ決まっていれば、実習後の考察も書きやすくなります。
まとめ:この記事で持ち帰れること
この記事を読んで、次の2つを判断できるようになったはずです。
- 目標が抽象的になる原因——「学びたいこと」を「誰に・いつ・何を・どのくらい」まで変換する手順を踏んでいないという、具体化のポイント
- 今日からできる書き直し方——弱点克服にこだわらず、得意を伸ばす目標も選択肢に入れてよいこと、実習の途中で目標を見直してよいこと
次に実習の目標を書くときは、「学びたいこと」を書いたあとに、「誰に・いつ・何を・どのくらい」の4つを自分に問いかけてみてください。そこまで書けたら、あとは実習日誌の考察でその日の行動を振り返るだけです。目標と考察がつながったとき、実習日誌は「評価されるための書類」から「自分の成長を自分で追える記録」に変わります。実習で身につけたこの「具体化して振り返る」習慣は、介護福祉けありんぐでの発信にもそのまま活かせます。
よくある質問
A. 気持ちが足りないからではなく、「学びたいこと(方向性)」を「今日やること(行動)」まで変換する手順を踏んでいないためです。「誰に」「いつ」「何を」「どのくらい」の4点を書き加えることで、実習後に「できたか・できなかったか」を自分で判断できる目標に変わります。
A. 目標を立てる際の5つの視点(Specific=具体的か、Measurable=測定できるか、Achievable=達成可能か、Relevant=関連性があるか、Time-bound=期限があるか)を示す考え方です。実習の目標では、特に「具体的か」「測定できるか」の2点を意識すると書きやすくなります。
A. そうとは限りません。弱点を克服する目標だけでなく、すでに得意なことをさらに一歩深める目標も、立派な実習の目標です。どちらか一方に決めつける必要はなく、自分が実習にどう臨みたいかで選んで構いません。
A. 変えて構いません。実習が進むにつれて現場の解像度が上がり、最初の目標が簡単すぎた、あるいは難しすぎたと分かることはよくあります。「今の目標をもう達成できたと感じるか」を目安に、段階的に見直してください。
A. 目標は実習前に立てるもの、考察は実習後に振り返って書くものという順番の違いがあります。考察で書いた「次への行動」が、そのまま翌日以降の目標の見直し材料になるという関係でつながっています。
この記事を、自分の経験を整理するきっかけに
まずは公開せず、次の3点を手元のメモに書いてみてください。
- どんな場面で、何を見たり聞いたりしたか
- 自分は何を考え、どんな工夫をしたか
- 同じ立場の人に、どんな経験や工夫を聞きたいか
業務記録をそのまま転載せず、利用者・家族・職場が特定される情報を含めない形に整理します。迷う内容は公開前に職場のルールと相談先を確認してください。



