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カスハラ対策の義務化(2026年10月)に向けて、現場の介護福祉職が今から備えたい5つのこと

執筆: けありんぐ編集部介護福祉けありんぐ 編集部

カスハラ対策の義務化(2026年10月)に向けて、現場の介護福祉職が今から備えたい5つのこと

「利用者さんに胸ぐらを掴まれたけど、認知症だから仕方ないと言われた」 「ご家族から夜中に何度も電話があって、若手の◯◯さんが眠れていない」 「セクシュアルな発言をスルーするのが当たり前になっている自分が、ふと怖くなった」

——介護福祉の現場で働く方なら、こうした場面を一度は見聞きしたことがあるはずです。長らく「サービス業だから」「認知症だから」と職員側が飲み込むしかなかった問題が、いま大きく動こうとしています。

2025年6月に成立した改正労働施策総合推進法等により、2026年10月1日から、介護事業所を含む全ての事業主にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務付けられます厚生労働省 介護現場におけるハラスメント対策)。

「ようやく」という気持ちと、「現場が変わるまでに何が必要なんだろう」という不安と。両方を抱えている方は多いと思います。本記事では、義務化を待たずに、今から現場の介護福祉職一人ひとりが備えておきたい5つの観点を、厚労省の公式マニュアルを根拠にまとめます。

まず押さえたい:そもそも何が「ハラスメント」なのか

厚生労働省が三菱総合研究所に委託して作成し、令和4年3月に改訂された「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、利用者・ご家族からのハラスメントを次の3つに整理しています。

種類具体例
身体的暴力コップを投げつける、蹴る、唾を吐く、つねる、髪を引っ張る
精神的暴力大声で怒鳴る、理不尽なサービスを要求する、特定の職員に嫌がらせを繰り返す
セクシュアルハラスメント不必要に体を触る、性的な発言を繰り返す、入浴・排泄介助中の性的な要求

ここで大事なのは、「サービス業だから我慢すべき」という線は法的にも倫理的にももう存在しないということです。義務化される対象は「すべての事業主」であり、対応を怠った場合は厚生労働大臣による報告徴求・助言・指導・勧告・公表の対象になり得ます。

備え1: 認知症由来の言動とハラスメントを「分けて考える」感覚を持つ

現場で最も判断が難しいのが、認知症のある方の行動です。BPSD(行動・心理症状)として現れる暴言・暴力は、本人の意図的な攻撃ではなく、不安・不快・痛み・恐怖の表現であることが多いです。

厚労省マニュアルでも、**「認知症等の病気または障害の症状として現れた言動は、ハラスメントとは切り分けて対応する」**という考え方が明示されています。一方で、

  • 同じ職員にだけ繰り返される
  • ケアと無関係な場面で執拗に行われる
  • ご本人の状態が安定しているときにも見られる

といった場合は、症状とは別の「ハラスメント」として組織で対応する必要があります。

認知症の方への声かけ方 — ユマニチュードに学ぶ基本の4ステップで整理した基本のケアを行ったうえで、それでも繰り返される場合は「自分の関わり方の問題」ではなく「組織で対応すべきテーマ」として扱う。この線引きの感覚を、現場全体で共有しておきたいところです。

備え2: 「これは違和感がある」を言語化する習慣をつける

ハラスメントの多くは、最初は小さな違和感から始まります。

  • 「あの利用者さん、特定の若い女性職員にだけ手を握ろうとする」
  • 「あのご家族、訪問するたびに30分以上クレームの電話がかかってくる」
  • 「夜勤帯、◯◯さんがコールで毎回呼びつけるのが気になる」

こうした「気になる」を、その日の申し送りや記録に事実ベースで残すことが、組織が動く最初の一歩になります。書き方の例:

18:40、入浴介助中、A氏より「お前の胸は小さいな」と発言あり。「そういうお話はやめてください」と返答。同様の発言は5/10、5/14にも記録あり。

主観(嫌だった、不快だった)も書いて構いません。記録が残っていないと、組織は事実を把握できず、対応の判断材料になりません。

多職種で記録を共有するときの基本フォーマットは、多職種連携を円滑にする情報共有のコツ — ICFとSBARで伝わる記録をで整理しています。SBARの「S(状況)」と「B(背景)」を意識して書くと、誰が読んでも事実関係が伝わります。

備え3: 一人で抱えない。相談窓口と「逃げ道」を知っておく

カスハラ対策義務化の本丸は、事業所側に相談窓口の設置・職員配置・対応マニュアル整備を求めることにあります。義務化を待たず、自分の事業所がどうなっているか今のうちに確認しておきましょう。

確認しておきたいポイント:

  1. 相談窓口が誰なのか(管理者、サービス提供責任者、外部相談窓口など)
  2. 窓口に相談した内容が、誰に共有されるか
  3. 担当変更や訪問体制の見直しが可能か
  4. 重大な事案の場合、契約解除や警察通報も選択肢として組織に用意されているか

事業所に窓口がまだ整っていない場合は、各都道府県・市区町村の介護保険担当課や、労働局の総合労働相談コーナーといった外部窓口もあります。新人の方が直面したときに、相談先を知っていることが本人を救うことがあります。新人時期の壁を扱った新人介護職の3ヶ月の壁を越えるでも触れたとおり、「相談先を知っている」こと自体が心理的な支えになります。

備え4: 同僚の異変に気づき、声をかけられる関係をつくる

カスハラ被害は、本人が自覚していないことも珍しくありません。「自分が至らないせいだ」「みんな我慢している」と思い込んでしまうのが、この問題の難しいところです。

同僚の以下のようなサインに気づけるかどうかが、現場のセーフティネットになります。

  • 特定の利用者さんの担当を露骨に避けるようになった
  • 訪問前にトイレに長くこもるようになった
  • 「私が悪いんです」と過剰に自分を責める発言が増えた
  • 急に欠勤や遅刻が増えた
  • 食事や雑談の場で笑わなくなった

声をかけるときのコツは、「指摘」ではなく「観察」を伝えること。

「最近、A様の訪問のあと疲れてる感じがするけど、大丈夫?」 「もし話せそうなら、◯◯さんに相談してみてもいいかも」

メンタルヘルス全般の動向は介護職のメンタルヘルスケア最新動向にまとめています。職場の外にも安心して話せる場を持っておくことが、長く現場に立ち続ける土台になります。

備え5: 「個人の問題」ではなく「組織の課題」として扱う流れをつくる

カスハラ対策の本質は、ハラスメントを個人のスキル不足・忍耐力の問題から切り離すことにあります。義務化された後の事業所は、

  • カスハラの方針表明
  • 相談体制の整備
  • 発生時の対応手順の明文化
  • 再発防止策の実施
  • 職員研修の継続

を求められます(厚生労働省 介護現場におけるハラスメント対策マニュアル)。逆にいえば、これらが整っていない事業所は、義務化後に指導・勧告・公表の対象になる可能性があります。

職員側からも、

  • 「うちの事業所のカスハラ対応方針って、今どうなってますか?」
  • 「事例集や研修動画を見る時間を取れませんか?」
  • 「重大事案のときの対応フローを一度確認しておきたいです」

と、現場発のリクエストを出していく動きが大切です。組織が動くきっかけは、たいてい現場の声からです。

厚労省が無料で公開しているリソース

「自分の事業所では何から始めればいいか分からない」という方へ、厚労省が無料で公開している資料は確かな出発点になります。

これらは個人で読んでも学びがあります。「自分の現場ではどう運用されるべきか」という視点で読むと、組織への提案材料になります。

介護福祉けありんぐで、現場の声を業界の知恵に

法律が変わっても、現場の景色がすぐに変わるわけではありません。「実際に困った場面でどう動いたか」「うちの事業所ではどんな仕組みで運用しているか」という現場の知恵こそが、義務化後の介護業界を支えます。

介護福祉けありんぐ は、所属や経歴を背負わずに、こうした現場のリアルを匿名で発信し合えるプラットフォームです。

  • 自分が経験したカスハラ事例(匿名で)
  • 事業所で導入してうまくいった/いかなかった対応策
  • ご家族とのコミュニケーションで助かったフレーズ
  • 認知症のある方への対応で気をつけている線引き

これらは、書き手自身の振り返りにもなりますし、別の施設で似た状況に直面している同職を確実に支えます。発信そのものがキャリアになる話は現場の知恵を「業界の資産」に変えるで整理しています。

まとめ

2026年10月のカスハラ対策義務化は、長らく「我慢」で乗り切ってきた介護現場の文化が大きく変わる節目です。職員一人ひとりが今から備えられることを、もう一度整理しておきます。

  • ハラスメントの3分類(身体的・精神的・セクシュアル)を厚労省マニュアルで把握する
  • 認知症由来の言動とハラスメントを切り分ける感覚を持つ
  • 違和感を事実ベースで記録に残す習慣をつくる
  • 事業所の相談窓口と外部相談先を知っておく
  • 同僚の異変に気づき、組織の課題として扱う流れを育てる

明日からの一歩は、決して大げさなものでなくて構いません。**「自分や同僚の安全は、サービス業の前提として守られていい」**という感覚を、現場全体で取り戻していきましょう。

そして、その過程で気づいたこと・困っていることを、ぜひ介護福祉けありんぐで発信してください。あなたの言葉が、義務化後の介護現場を支える地図の一片になります。